グリブル小説「そんな日」
 

 

そんな日

 

「…ブルー?何をしているんだ…」
雨がざーっと降る道で、膝に顔を埋めて座り込んでいたあたしに、そんな声が聞こえてくる…。
「……グリーン?」
顔を上げれば、想像通りの人が、そこにいた…。
「何をしているんだ」
何故こんなところに?と言いたさげな顔で、あたしを見下ろしてくる。
「………雨宿り?」
「何故疑問系なんだ」
「さぁ?」
あたしも思った。
「…ふぅ。傘を持って出なかったのか?今日は降水確率80%だったはずだが?」
呆れたようにため息を吐く。
「そうだったかもしれないわね…」
そう曖昧に、返答を返した。

そういえば、天気予報でそんなことを言っていたかもしれない…。
でも出てくるときは降ってなかったらから、なんとなく傘を持って来なかった。

「…どうした?」
あたしのいつもと違う感じに、彼は心配そうに聞いてくる。
「…ん?べつに?」
そんな彼に、やんわりと苦笑を返した。
「……はぁ。ほら、帰るぞ。こんなとこで雨宿りしていても、今日中には止まないぞ」
まともに話しても埒が明かないと踏んだのか、そのまま手を差し伸べれらる。
「…まぁ…濡れて帰るつもりでもあったけど…」
差し伸べられた手を取り、少しだるそうに立ち上がった。
「そんなことしたら風邪引くぞ」
ったく、と彼は呆れたような表情をする。
「…ん〜風邪を引きたい気分だから、いいかな〜って」
彼の傘に入り、一歩歩を進めた。
「はぁ?」
なんだそれは?と言いたげな顔が、あたしを捉える。
「…ほら、よくあるじゃない?例えば、行きたくないところにどうしても行かなきゃいけないとき、あぁーお腹が痛い気がする〜とか、頭が痛い気がする〜とかさ。で、ほんとにお腹が痛くなればいいのに。ほんとに頭が痛くなればいいのにとか思うじゃない?それと一緒な気分」
風邪を引けばいいのに。
なんとなく、そう思っていた。
「…どっか行きたくないような所に行かなきゃいけないことでもあるのか?」
彼は納得していないながらも、話を合わせてくれる。
「ん?いや、例えばの話よ」
くすくすと笑いながら、そう答えた。
「…じゃあ実際はなんで風邪を引きたいんだ?」
理由が気になるのか、質問を投げかけられる。
「……一人で…いたくないからかな…」
雨の音に、消え入りそうな声が、彼の耳に届けられた。

家に閉じこもってみると、誰もいない空間を味わう。

イエローはポケモンの世話に忙しく、レッドもグリーンも修行に出かけたり、バトルの練習に明け暮れたりと、日々忙しい毎日を送っている。
グリーンに至ってはジムリーダーの仕事もあるし。
シルバーはジョウトにいて、そんなに気軽に会えるわけでもない。

そうなると、どうしても一人を味わってしまう。

一人の方が気楽と言えば気楽だ…。
何にもとらわれず、みんなみたいに何かをしなきゃいけないわけでもない。
何もない暇な日常を、ただごろごろと過ごすことができる。
普段はそれでも平気…。
普段はそれでも大丈夫…。

でも、雨が降る、そんな日は、無償に一人に怯えてしまう。
雨が降りそうな、そんな日は、孤独に負けてしまう…。

だから外へ出た。
町に出れば、誰かしら人はいる。
世界に、たった一人しかいないのではないかという、不安は消える。
そんな…気がしたから…。

「風邪を引けば、誰かは会いにきてくれそうな、気がしたから…」
自嘲的な笑みを、浮かべた。

そんな保障はどこにもない。
あたしごときが風邪を引いたくらいで、誰かが見舞いに来てくれるとも思わない。
でも、何もないよりは、何かあった方が、期待ができるのではないかと思ってしまうくらい、あぁ、あたしは限界を感じているのかな…。

「……どうした?何かあったのか?」
こんな弱音を、彼の前で吐いたことは少ない。
心配そうに、あたしを見つめてくる。
「……べつに…ただ、今日は雨が降ったから…」
そう言いながら、空を見上げた。

小雨は好き。
でも、今日のようにざばざば降る雨は嫌いなの。

「…雨……か…」
「…うん」
言葉が途切れれば、聞こえるのは雨の音だけ…。

「……呼べよ…」
「え?」
沈黙を破る、彼の声が、雨の中に響く。
「…暇なときは顔見せくらいはしてやる」
少し赤らんだ彼の顔が、あたしの視界に映った。
「……え?」
今、彼は何と言っただろう…。
どう解釈しても、自分に都合のいいようにしか聞こえないのは、気のせいなのだろうか…。
「…なんだよ…」
すっとんきょんな顔を浮かべていたのか、彼が訝しげな表情を見せる。
「え?…あ…いや……でも、グリーン忙しいじゃない」
可愛くない。
素直に喜べない自分が口惜しい。
「…じゃあおまえが会いにくれば?」

一緒に……いてくれると言うの?

こんな…あたしと…。

「………ありがとう」
珍しく、素直にお礼を言えた気がする、そんな日…。

 

2004年10月21日 Fin


あとがき

そのあと姉さんを家まで送った兄さんが、家に帰れなかったのは別なお話って方向で(笑)やーい朝帰り〜(おい)っていうかみなさん知ってます?朝帰りって朝帰るから朝帰りって言うんじゃないんですって。0時すぎて家に帰るから朝帰りって言うんだとか。知ったときはショックでした…。そうだったのか…。
しっかしまぁ、似非くせー兄さんですいません。めちゃくそ姉さんに優しい兄さんを書きたかった。っていうかね、なんかこう、孤独に飲み込まれそうな姉さんの、光であってほしいなって思うんですよ、兄さんは。なんかこう、あんまり重要視していないように兄さんが言う言葉が、姉さんにはすっごい助けになっている、なんていう関係がいいなって思います。素で姉さんを口説いてるんですね!さっすが兄さん(えぇ)ごめんなさい。えぇまぁ素直になれたのも、兄さんがそうやって姉さんを絆していくからで。姉さんそのうち涙腺も緩んじゃうんじゃないかしら。兄さんのせいで姉さんはどんどん泣き虫弱虫さんになっていっちゃうわね。でもきっと、兄さんが受け止めてくれるわ!!きっと。彼には守るべき何かが必要なんだ!!!絶対!!ブルーという存在が!(落ち着け)
まぁなんといいますか、うちのサイトでは弱い姉さんが主流なんですが、ここまで弱音を吐かせたのはもしや初めて?まぁそれだけ兄さんには心を許してしまっているというところに注目していただけると嬉しいです。
まぁ兄さんをさらに語ると、ようは風邪をひかれる方がよっぽど困るみたいなね。寂しいなら風邪を引くまえに合図をくれってことです。あははは。少しでも、助けになれればいいなぁっていうね。あははは。あぁ。
はい、無駄にグリブル語りでした。