グリブル小説「空雷のち心晴れ」
 

 

空雷のち心晴れ

 

「あっれー、グリーンだぁ」
「……」
この声は…。
「そんな嫌そうな顔するなよぉ…」
俺に気づき、俺の名前を呼んだそいつは、苦笑して俺を見てきた。
「…レッド…なんでおまえがここにいるんだ…」
俺ははぁっと思いっきりため息をつく。
「俺?旅の帰り。マサラに帰る途中。おまえは?」
俺が先に歩き出すと、彼も同じ方向に歩き出した。
「…俺もおなじところだ…」
帰る先が一緒なら、おのずとこういうことになる。
「あ、まじで?…あれ…でもおまえ、帰るのもうちょい後じゃなかったっけ?」

何故知っているんだ?
実際、俺が旅に出るときは、まだこいつはマサラにいた。
となると、ブルーからでも聞いたのだろうか…。

「まぁ…そうだったが…」
誰が知っていようがどうでもいいやとため息をつき、話をそのまま流す。
「…だったが?」
「…」
なんでそんなくらい付くんだ。
別にいいだろうが…。
「…なぁ、なんで?」
よほど気になるのか、じっと見つめられる…。
「…はぁ…………明日…マサラ方面で雷が落ちるらしいからな…」
ものすごく言いにくそうに、俺は理由を述べた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…グリーンにも愛ってあったんだな…」
「どういう意味だおい!!!」
俺は思わず思いっきり突っ込んでしまう。

たっぷり間をあけて返してきた言葉がそれって、どういう意味だ!

「いやぁ、案外どうでもいいのかなぁと思ってて…」
「おまえはどうでもいい奴と付き合うのか?」
グーで殴ってやろうか?
「いえ、そんなことありません、スイマセンデシタ…」
分かればよろしい。
「…ったく」
はぁと息を吐き、再度マサラへの道を帰る。
「いやぁ、でもまさか、ブルーの雷嫌いのために、わざわざ当初の予定を変更してまで帰るとはねぇ…」
「…やっぱり殴られたいか?」
そのにやにやした面をどうにかしろ…。
「いえ、滅相もありません…」
彼はにやけていた口元をぎゅっと元に戻した。

そうなのだ…。
わざわざ予定を変更してまでマサラに帰る理由。
それは、雷嫌いの彼女のためだった…。

弱味なんて滅多に見せない彼女。
鳥恐怖症を克服してから、弱点なんて早々見せない彼女の、唯一の弱点らしい弱点だ。
決まって雷の日には、どんなに怒ろうが俺の部屋で寝ようとする彼女を問い詰めた結果、知れたことだった…。
他にもレッドとイエロー、おそらく、一緒にいた時間の長いシルバーも知っているかもしれない…。
だから、レッドに理由を話せば、誰のために帰るのかが分かるから、言うのが嫌だったのだが…。

「…じゃあ、俺帰る必要性ないかもな…」
しばらく考え事をしながら歩いていると、彼がふと呟く。
「は?もともと帰るつもりだったんじゃないのか?」
じゃあなぜここを歩いてるんだ。
この道はマサラにしか向かわない道のはずだが…。
「…じゃん、じゃじゃ〜ん♪」
彼は自分のポケギアに送信されたメールを、俺に見せてくる。
「なんだ?」
メールがどうかしたのか?
「…まぁ、読めば分かるよ…」
そう言って、ポケギアを手渡される。
「………」
そこにあったのは、ブルーからのメールだった。
「まっ、そういうことだったからさ。強制帰還っていうの?」
彼は苦笑して、ポケギアを仕舞う。

そこに書かれた内容は、こうだった。

  明日雷が降るらしいので、
  イエローと一緒にうちに
  泊まりにきて!!絶対!
  絶対お願い!!!

いつもの絵文字やら、無駄な記号は一切省かれた単調な文章。
おそらく、天気予報を見た瞬間、即効で打ったのだろう。
慌てぶりが、その文章から見て取れた。

「…なんであいつ、俺に言わねーんだ」

こんなメール、もらったことは一度もない。
マサラに居る間は、勝手に人の家に来て、雷が去れば帰っていっていた。

そういえば、実際いないときにどうしているかまでは考えもしなかったな…。
今回だって、たまたま天気予報を見て、たまたまマサラに帰りやすい場所にいたから、こうして戻ってるだけだ。

まさか、俺がいない間は、レッドに頼んでるなんて…。
今回強制と言われながら帰っているのは、おそらくこれが初めてではないからだろう…。
そう考えると、無駄に眉間に力が入った。

 

「そりゃあ、好きな奴の邪魔なんか、したくないからだろ…」

 

 

 

 

 

「……」

眉間に無駄な感覚を感じながら、彼の言葉を耳にする。

なんだその理由は…。
普段迷惑顧みずに、なんでもしてくるくせに…。
こういうときだけ無駄にしおらしくしやがって…。

「…たまには4人で泊まり会でもするか!」
彼があっはっはと笑いながら道を歩く。
「おまえらくんな」
俺はあいつより先に道を歩き出した。
「なんでだよ!」
「なんででもだ!」
俺は、家路をさっきよりも早い速度で歩く。

空の雷に怯えた、彼女の心が、今すぐ晴れるように…。

 

2007年11月27日 Fin


あとがき

うは、兄さんってば甘いんだから!!あははは。でも近くにいなきゃ帰らないんですが。そこが兄さんの愛があるようでないような感じを否めない理由のひとつだと思います。電話くらいしてやればいいのに、帰れないから仕方あるまいと流すんでしょうね。そもそも天気予報すら見ることもなく、知らないまま過ぎ去っていくのかも。でもきっと、今回のことを機に、雷の日は連絡しろって怒りながら言うんだと思います(笑)なんで怒ってるのか分からないけど、でも嬉しい姉さんだったり。
今回自分設定を少し出したお話しを書きました。姉さんの雷嫌い。姉さんって鳥恐怖症治しちゃったら、弱点ないんですよね。いいことですが。なんていうかそんな強がり強気な素敵な姉さんの弱点みたいななんかそういうのほしいなぁって思って。考え付いたのが雷でした。ある日帰ろうとするグリーンの背中にいきなり抱きついて、服の裾を掴んで「やっぱり今日は帰らないで」って理由を言わずに引き止める彼女とか萌えるなぁって。そんで雷に怯える彼女を見て、兄さんがときめくといいなぁって。かわいいって思うといいなぁってさ。意外な一面として受け止めてくれると嬉しいです。おばけって線も考えたんですが、姉さんって少女マンガ趣味なくせして結構現実主義者だから、おばけは絶対いないって思ってそうで。原理からつれつれと語ってくれるような、そんななんか理論派な気がします。おばけ屋敷もどうやってできてるの?って見ちゃうタイプじゃないかなぁ。まぁ雷も自然現象ですから怖くないでしょうが、雷に昔何かのトラウマになるような出来事があって、鳥恐怖症と同じように、いろんなことが作用して、怖くなってるんじゃないかなぁって。そのうち雷の日は兄さんといることで、徐々に緩和していく気もしますけど。そんな雷嫌いというマイ設定をつけて姉さんのお話でした。