グリブル小説「誓い」
 

 

誓い

 

暗い…暗い闇…。
冷たくて、重々しくて、息をするのが苦しい。

苦しい…。

 

 

苦しい。

 

 

 

苦しい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っ!?」
「…」
「おいっ」
俺は自分の上に乗っている、女の手をどけた。
「…おはよう」
おはようと言うにはまだ時間は早すぎるが?
というか、
「…おまえは俺を殺したいのか…」
苦しいと感じたものの正体は、彼女が俺の首を占めていたからだった。
「…うん」
「おい」
俺は寝転がっていた体を起こす。

うんってなんだ。

「…だって…」
寝起きなのか、寝ぼけているのか、いつもの甲高い声とは違う、少し沈んだ声が、部屋に消えていく。
「…」
いつもと様子が違う彼女に、俺はそっと手を伸ばし、頬を撫でた。
「…」
彼女は猫のように、その手に身を委ね、目を瞑る。

何があったのだろう…。
何かしただろうか?
こんな、表情をさせるようなことを…。

「…殺したら…何のしがらみもなく、あたしだけを見ていてくれるかなって…」
ぽつりと言葉が紡がれる。
「は?」
何を言い出すんだ、こいつは…。
「…あなたを殺して、あたしも一緒に死んで、何のしがらみもない世界で、あたしだけのことを見て、あたしだけのことを感じて、あたしだけを愛してほしいの…」
彼女はゆっくりとした動きで、俺の首にぎゅっと抱きついてくる。
「…どうした…?」
優しく彼女を抱きしめ、髪の毛を梳いた。

そこまで思わせるほど、不安にさせるようなことをしただろうか。
会わなかったと言っても、たかが3日だ。
最高1ヶ月会わなかったことだってある…。
ここ最近だって、そう放っときっぱなしにしたつもりはない…。
つもり…

「…」
彼女はいつもよりも力なく、俺に抱きついたままだった。
「…」
俺は彼女を優しく抱きしめたまま、思考を廻らせる。

考えれば考えるほど、思い当たる節はある。
細かいことでも、こいつは気にしてることが多い。
今度は、何をやらかしたんだろう…。

「…っ」
「…ごめん」
優しく頬を撫で、目尻に指を這わせる。

また、泣かせたんだろうか…。
心なしか、目が赤い気がした。

泣かせるつもりなんかない…。
傷付けるつもりなんかない…。
でも、この思いを、どう言葉にして表せばいいのか、俺には分からない…。

「…ごめんっ」
謝ることが心苦しい。
何もできない。
そう、諦めにも似た感情を、押しつけているようで…。

「…っ…ごめんなさいっ」
「え?」
彼女は慌てて俺の頬に手を添え、不安げな表情で、俺を見上げた。

この場合、俺が謝ることはあっても、彼女が謝ることはないと思うんだが…。

「…ごねんね…そんな表情をさせるために、言ったわけじゃないの……ごめん…」
そっと額を合わせ、優しく言葉が紡がれる。
彼女の冷たい手の感触と、額の暖かさを、同時に顔に感じた。

「…いや…でも…」

そこまで不安に思わせた責任は、俺にもあると思う。
実際、苦しいとは思っても、首を絞められたことによる苦しみというより、上に乗っかられた苦しみのが大きかった。
本気で殺すつもりなら、あんな力じゃ殺せない。
本気でそういうことをするつもりじゃなかったことは分かる。
それでも、そこまでの考えに至らせたことに、申し訳ないと思ったんだ…。

「…ただ、この先ずっと、ずっと、あたしだけを見て、あたしだけを感じて、あたしだけを愛してもらうためには、殺すしかないのかなぁって思っただけなの…」
「…なんでそんな極端なんだ」

こいつが、分からない未来を考えるのは珍しい。
それだけ、俺の傍にいたいと思う、気持ちが強いのか…。
それにしても、なんでこいつはこんなにも極端なんだろう…。

「…そう…かもね」
力無く、俺の胸に顔を埋め、弱々しい声が俺の耳に届いて消える。
「…っ」
「いたっ…痛いっ」
俺は力強く、彼女を抱きしめた。

 

 

ここで、ずっととか、永遠とか、一生とか、言葉に添えてやればいいのに、彼女はそんな、完全でありながら、曖昧な言葉をつけることを望まない。
いっそ、結婚してやるとか、そんな言葉が言えればいいのに、形になって、消えることができる言葉を、彼女は余計に、不安に感じる。
何が彼女にとって最善の言葉なのか、俺には分からない。
だからこそ、おまえが望もうが、望むまいが、嫌がろうが、なんだろうが、俺がただ、傍にいるんだという、想いだけを伝えよう。

 

 

 

 

「おまえが嫌だって言っても、傍にいるからな…」

と…。

それが、俺に言える、最善の言葉だから…。

「それは、殺されないための予防策?」
どうしてそう、素直に言葉を受け容れられないんだ、おまえは…。

「これ以上、泣かせないための誓いだ」
「…っ…あ」

それ以上の言葉は言わせない。
後頭部を抑えて、キスをして、そのままベッドに押し倒して。

あの世に逝くのは、当分先だ。

 

2007年4月15日&5月10日 Fin


あとがき

ぎゃあああああああああああああああああああ!!!かっこいい!!!(ええええ)いや、あの、自分で書いて、自分の兄さんにかっこいいとときめいてる時点で世も末だと思ってしまうのですが、最後の「誓いだ」って言葉はかなり、決め台詞です。かなりかっこいいと思ってしまった!!!それを言いながら姉さん押し倒すんだぜ!!!兄さんかっこいい!!!きゃあああ!!そういう、たまには強引的な男らしいことして欲しいですよ、兄さん(ええ)最後の言葉も好きなんですけどね。なんかもう、かっこよさをとりあえず詰め込んだ1作となりました。
でもね、この兄さん、かっこいいつーかエロいんだよ!!!!!とか思ってしまったんですが、夏樹様曰く、最後に押し倒すからじゃんと言われたのですが、まぁそれを抜けばエロくないんですが、言葉をかけてるので、消せないというか。まぁこんなかっこつけてる兄さんがうちのグリブル好きに受け容れていただけるかは謎ですが、夏樹様が「べつにいいんじゃない?」とOKをくださったので無事日の目を見ることができました。良かったね(笑)
これは4月のイベント時に書いてたものです。その前から姉さんが殺そうとする話を書きたいとは思ってたんですが、形になったのが4月15日。でもその日全部書けずに放置して1ヶ月。書こうとPHS動かしたら親父の電話で保存されぬまま削除されました(死)くっそう!!!もっとかっこよく書けてたのに!!!無駄にエロくなったんはきっとそれの性だ。必死に思い出しましたけど、一度書いたものはもう二度と戻ってこねー。ちきしょう!!まぁそんな大惨事に見舞われた作品ですが、少しでも兄さんがかっこよくあれ!という意味を込めて。こんなに優しい兄さんってありなのかしら。そもそもこんな姉さんを大切にしている兄さんなんてありなの?!まぁグリブルの本筋か。頑張れ兄さん!今が攻め時だ!!!(ええ)