グリブル小説「弱くて、強くて」
 

 

弱くて、強くて

 

俺は、一度だけあいつの弱い部分を見たことがある。

泣き顔や、おびえた顔なら、ポケモンリーグで見たこともあるが、それ以外のことで、あいつが泣いた姿なんて、想像がつかなかった。

あれは、俺とレッドとブルーが、たまたま同じ場所で野宿したときだ。
レッドが折角会ったのだから、ばらばらでいるより、一箇所に固まっていた方が安全だ、と言った言葉に、そのまま流されたんだ。

暖を取り、見張りを交互に立てて、火の番をしていた。
ちょうど、俺もうとうとしかけていた時だった。

「いやぁ!?」
がばっと跳ね起きると同時に、小さくだったが聞こえた悲鳴。
「?」
何事かと思い、一瞬目を開けるが、ブルーの涙を流し、肩で息をするその姿に、思わず目を見開いた。

大方嫌な夢でも見たのか。と勝手に憶測を立てて、再度目を瞑った。

 

あのときの俺は、関わらない方がいいと勝手に思い込み、そのままあいつが寝付くまで、放っておくことしかしなかった。
気づかれたくないことや、知られたくないことは、誰にだってある。
実際、あいつは次の日、何もなかったかのように、いつもの笑顔で去っていった。

それに、あのときの俺に、何か言う資格はない。
あいつの過去なんか、知りもしなかったし、あいつが何におびえ、何に苦しんでいようと、俺には関係なかったからだ。

 

しかし、今ならそれはどうなるか…。
あのとき同様、俺には何も言う資格はない。
だが…

「…」
炎が薪を燃やし、ぱちんっと音を鳴らした。

今、あの時と同じ状況が、繰り広げられている。
唯一違うのは、レッドがいないだけだ。

ブルーは、あの時と同じように、涙を流す。

俺に何ができる。
…何もできやしない。
俺に何が言える。
…気の利いた台詞ひとつ浮かんでこない。

過去を知ったって、何に苦しんでるか分かったって、俺には何一つこいつにはしてやれない。

何より、こいつがそれを望まない。
そう、表面上のあいつなら。

「どうした?」
ここからは、あの時とは違う。
「…グリーン!?」
まさか起きていたとは、という顔に、涙が光った。
「何を泣いている」
ぶっきらぼうに詮索する俺に、俺自身が笑える。
「泣いてなんかいないわ。あくびをしただけよ」

表面上のあいつは、弱さを決して見せはしない。
泣くことなんて、誰にも知られたくない。そういった思いが伝わってくる。

人は、あいつを強いと言う。
だけど、最初から強い人間なんて、本当は、どこにも存在しない。

「ちょっ!?ちょっとグリーン!?」
俺はブルーを抱きよせた。
俺の腕の中で慌てふためくこいつの姿に、思わず笑いそうになる。
「俺には、おまえが求めるような言葉は、何も言えやしないし、何も聞く気もない。だがな、これだけは言える」

弱いからこそ、強く見せようとするんだ。

「一人で泣くな」
「!?」

 

 

 

あのときの俺は、こいつがどうなろうと、知ったこっちゃなかった。
あいつの過去も、苦しみも、どうでもよかったんだ。

あのときの俺からは、想像できないだろうな。
今の俺は…。

思わず、苦笑した。

「?」
俺の背中にひとつのぬくもり。

「ごめん。しばらくこうさせて…」
擦れそうな声は、夜の闇へと消えていく。
「明日になったら、ちゃんと、いつものアタシに戻るから…」
震える肩が、妙に小さく感じた。

「いつものおまえって、どんなだ」
「…え?」
ブルーが思わず顔を上げる。

いつものおまえっていうのは、強い、と自分に言い聞かせた姿か?

「今のおまえだって、昨日のおまえだって、明日のおまえだって、おまえはおまえだろう…」
「…」

弱くたって、強くたって、何も変わりはしない。

「今、俺の目の前にいるのは、ブルー、おまえ自身だろ?」
ブルーの流す涙を、そっと指で拭う。
「…あなたはアタシをこれ以上泣かせたいの?」
「え…いや、べつに」
下を向き、また泣き出す彼女に、少し焦った。
「…ありがとう」
そう彼女が囁くと、今度は俺の首に腕を回し、ぎゅっと抱きついてきた。

 

最初から強い奴なんていない。
弱いから強くなろうとするんだ。

俺は、放っておけなくなったのかもしれないな。
弱いから強くて、強いから弱い、あいつを…。

俺は彼女を、強く抱きしめ返した…。

 

2004年3月18日 Fin


あとがき

ありえな〜い!!あはははは。グリーン兄さん視点ってのがありえない。なんかブルー姉さんをめっさくそ弱くしたかっただけです。うん。ちなみにあとがきの最後にある詩はブルー姉さんの心。本当はブルー姉さんバージョンも作ろうかとは思いましたが、やめました(めんどいから)詩から読み取ってくだせい。はい。まぁしっかしありえないことありえないこと。グリーン兄さんのこんな姿はやめてけれ〜。あははははは。すいません!!!全国のグリーン兄さんFANの方!!!土下座してお謝り申し上げます〜。あああああ。すいません。だって、だって、ブルー姉さんを弱くするためには、兄さんにでばってもらわないと、いけんのです!!!ブルー姉さん視点だと、どす黒い怖い話になるので、あえてグリーン兄さんで、こうなんていうの?昔と違う感情に振り回されている、彼を、書きたかったって方向で。まぁ心の変化?っての?まぁそういうことです。はい(ええ)
まぁ弱いから強くて、強いから弱い。これは私の考えです。みんながみんなそうとは思いませんけどね。でも最初から強かったら、それは強いとは言わないような気がするんです。弱いからこそ、強くなろうと努力して。自分で強いだろ?って言う人ってあんまりいないじゃないですか。むしろ、そう言わないと弱くなりそうでって人が、自分のために言ってそうで、そういう人ほど、心は弱いんじゃないかなって思います。はい。以上、俺の哲学でした(謎)
読んでくれてありがとうございました!!

 

 

 

 

許されたような気がしたの…
今まで、してきたこと全てが…

一人じゃないと、言われた気がして…
暗い闇から、光を差し伸べられたように…

アタシは、許されるの?
アタシは、一人じゃないの?

ねぇ、教えて…

アタシ、今のままでいいの?

…アタシは、許されるの?
…アタシは、一人じゃないの?

ねぇ…

  

『一人で泣くな』

 

ありがとう…