小さい頃は、男の子にも負けないくらい、はしゃいで、騒いで、遊んでた…。
でも、ある日から、私は力と引き換えに、翼を失ったしまったの…。
勇気
「…げほっ…けほっ…はぁ…」
呼吸が苦しい。
胸が苦しい。
でも、熱がないだけまだましだ…。
私が生まれたトキワには、10年に一度、不思議な力を持って生まれてくる子がいる。
実際、お母さんが力を持っている本人であり、また、4つ上のお兄ちゃんもその一人だ。
ところが、お兄ちゃんと10歳違わない私にも、同じ力がある。
そう、突然変異によって、私にも同じその力が宿ってしまったのである。
その力と引き換えに、私は健康な体を失ってしまった。
子供の頃の元気さが嘘のように、あの頃から私は、自分の部屋という鳥かごから、外へ出ることができなくなってしまっていた…。
「…はぁ」
呼吸を落ち着かせるために、ため息にも似た息を吐く。
トキワの力が原因である以上、薬もなければ、治療法もありはしない。
お母さんが言うには、もう少し大人になって、体力がつけば、きっと大丈夫だろう、と慰めてくれるけれど、私はもう、一生このままなのではないかと、思ってしまう…。
「…いいなぁ」
外では、元気に遊ぶ子供達。
と、かいくんを取り囲む、可愛い女の子達…。
「かいくん、旅から帰ってきたんだ……」
かいくんは、私のお父さんの親友の息子さんであり、お兄ちゃんの親友だ。
外へ出られなくなった私に、旅して見て聞いてきたことを、たくさん教えてくれる人。
そして、私の昔からの憧れのお兄さん。
小さい頃から、お兄ちゃんに会いに来たついでに、たくさん遊んでもらって、たくさんいろんなことを、教えてもらった。
今日もきっと、お兄ちゃんに会いに来たのだろう。
その途中で、女の子達に捕まったのかな…。
かいくんは、すっごくかっこよくて、頼れて、なんでもできて、すごく大人っぽくて、バトルもすごく強くて、一人でどこへでも行けて……とにかく、すごく、すごくかっこいい人。
あんなかっこいい人を、女の子達が放っておくわけがない…。
「私だって、外へ出られたら…」
あの女の子たちに、負けたりなんかしないのに……。
窓越しに見える景色が、ものすごく遠い。
もし、外へ出られたなら…。
もし、私が元気だったなら…。
もし……もし…………もし…。
「あたしは努力しないうちから諦めてる女なんか大嫌いよっ」
「いたっ!!」
ぼふんっと、ドアの近くに置いてあった等身大ピカチュウのぬいぐるみが、私の頭に当たって、絨毯に落ちる。
「そうやって一生、窓から眺めてれば?」
「…うみちゃん…」
私を小ばかにするように、鼻で笑いながら入ってきた少女は、かいくんの2つ下の妹である、うみちゃんだ。
「自分は病気だから、自分には何もできないから、自分じゃ駄目だから。なんて、最初から努力もせずに諦めてるくせに、そういう奴に限って、自分かわいそうとか、悲劇のヒロインぶってるのが気に食わないのよねぇ」
どかっと彼女は椅子に座る。
「私はそんなことっ」
悲劇のヒロインだなんて思ってない…。
「しかもそういう奴に限って、男の子にはよくモテるのよねぇ。信じらんない。そうやって弱っちく見せてれば、他の誰かがなんでもやってくれる。心配して何もさせなくなったら、駄目になるのはその子自身なのに、なんでみんなわかんないのかしらね。案の定、努力もしないで諦めるような子になってるし」
「私だって諦めたくて諦めたわけじゃない!!でも外に出たら倒れちゃうし、お父さん達は心配して外に出してくれなくなっちゃうしっ……外に出て、倒れて迷惑かけたら…それこそ最悪で…。…っ……私だって……私だって自由に外に出て、あの子達みたいにかいくんと話したり遊んだりしたいのに!!…げほっ…けほっ…あ…はぁ…はぁ」
急に興奮して叫んだせいか、発作にも似た咳が出始める。
息苦しい。
胸がつまるようだ…。
「なんだ…結局諦めてないんじゃない…」
そう言って、彼女は慌てるでもなく、何気ない顔で私に咳止めの薬と水を差し出してくる。
治す薬はなくても、こういった症状を和らげる薬は存在するのだ。
それで私は、日々をとりあえずは穏やかに過ごせている。
「…はぁ…はぁっ…はぁ」
薬を受け取り、水で押し流す。
「変わらない事実を嘆くよりもまず、自分ができることからやりなさいよっ」
人事だと思ってと、普通の人なら文句を言うだろう。
でも、うみちゃんがどれだけ苦労して、その考えにたどり着いたか、私は知っているから頷ける。
それに、彼女だけが、私を病人とか、弱い人として哀れむのではなく、対等に接してくれることが、私の希望を見出す力になっていた。
彼女だけが、私のことを、かわいそうだと言わない。
「…はぁ……だからって、私のピカちゃん投げないでくださいよぉ」
等身大のピカチュウは地味に当たると痛かった。
「諦めてる子に喝をいれただけよ?」
にやりと意地悪く笑う彼女は、私の数少ない大事な友達だ。
こうして、怒ってくれる大事な人。
うみちゃんも、すっごくかわいくて、頼れて、なんでもできる人。
ポケモンの相性のことにとっても詳しくって、お兄ちゃんもよくバトルのアドバイスをもらってるのを、この窓越しに見たことがある。
あ、違った…。
なんでもできるように見える人…だ。
その裏で、いろんなことを考えて、たくさんの努力をしてることを、私は知っている。
「諦めてませんっ」
私はむっとして彼女を見る。
そう。ちょっと弱気になっただけだ…。
「それでよしっ」
うみちゃんは、嬉しそうに微笑んで、私の頭を撫でてくれる。
「えへへ」
ちょっと怖いけど、とても優しい、憧れのお姉さんだ…。
「もっと…もっと……あたしみたいに努力しなさいよ。諦める前に…」
そう言いながら、窓を開けて下を見下ろすと、彼女の動きが止まる。
「うみちゃん?」
何かいただろうか…と私も外を見れば…
「シルバー兄様!!」
「!?」
彼女の声が、1オクターブ高くなったことに心底驚く。
「うみ…」
あれは、うみちゃんのお母さんの親戚の人?だっていうシルバーさんだ。
そして、うみちゃんの憧れの人。
彼は心底驚いたように、私達を見上げてくる。
「兄様!どちらに行くんですか!」
うみちゃんは心底嬉しそうに彼と話をしている。
「姉さんに頼まれた買い物だ」
打って変わって、彼は淡々と答えていた。
「私も一緒に行きます!!」
そんな態度に負けじと叫べば、うみちゃんは、窓から外へ…
「ばっ!?おまえっ!!」
飛び出した。
「うみちゃん!!!」
さすがの私も、その行動には驚かざるを得ない。
いくら2階だとはいえ、2階なのだ。
そんなところから飛び出したら危ない決まってるのに。
「兄様なら受け止めてくれるって信じてましたっ」
「あのなぁ…」
なんてにっこり笑顔でハートマークを飛ばすもんだから、こっちの心配を返して欲しくなる。
「この馬鹿者っ…何をやってるんだ…」
はぁとため息をつき、近くにいたかいくんが近づいてくる。
「…かい兄…。なんだいたんだね」
シルバーさんに、抱きかかえられた状態で会話をするうみちゃん。
なんて行動力だろう。あっという間にあの位置をゲットしてしまった…。
「なんだじゃない…。はぁ。すいません、シルバーさん…」
かいくんは申し訳なさそうに、シルバーさんに謝る。
「いいや…。ったく、うみ、あまり危ないことはするな。姉さんが心配するぞ」
はぁとため息をつき、ゆっくりとうみちゃんをおろす。
「はーい!」
にこにこ嬉しそうにしているうみちゃんは、絶対反省してないんだろうな……
「…っ」
じっと見ていた私と、うみちゃんの目が合う。
目で訴えられた。
あたしは努力した。
あなたは?
そう言われた…気がした…。
あぁ…どうか…勇気をください…。
今の私にできることを、するための勇気を…。
「…か……かいくんっ!!」
呼吸が苦しい。
胸が苦しい。
発作で苦しいんじゃない。
心臓が異常なほど早く動いてる気がする。
声が震える。
手に汗がにじむ。
言葉が続かない。
涙か出そう。
でも…でも……言わなきゃ……。
言わなきゃ…。
かいくんが見てる。
私を…見てる。
「あい?今日は調子いいのか?」
優しく微笑んでくれる。
私を見て、微笑んでくれる。
心配して、私を気にかけてくれている。
言わなきゃ…。
言わなきゃ……。
言わなきゃ…始まらないっ!!!
「お…おかえりなさいっ!…はぁ……また……いっぱい…っ…いっぱい…お話聞かせてくださいねっ!!」
私は精一杯叫ぶ。
精一杯…今、できる力で…。
今できる、最大のことを…。
「…あぁ、後で行くよ!」
そう言って、彼が手を振ってくれる。
笑顔を向けてくれる。
なんて、幸せなんだろう…。
「…シルバー兄様、行きましょうっ」
うみちゃんがウインクしてる。
私、ちゃんと…できたかな…。
今…できることを…。
あの人に会えるまで、あと少し…。
2009年9月2日 Fin
あとがき
次世代小説を書く日が来るとは!しかもなんだこの甘酸っぱい物語!!あははははは!!!!最後だけで2ページも使った!(笑)あいちゃん長すぎだ!源造様の絵を見て突発的に浮かびましたものを形にしました。これがその絵。きっとこんな感じに、こいつらは恋愛を頑張ってくれると思います(笑)かいは全然気づいてませんけどねぇ〜。だいよりはにぶくないけど、まだ親友の妹どまりだなぁ。がんばれあいちゃん!そしてシルバーが苦労人(笑)うみちゃんいくらなんでも飛び降りるのはどうなの!!って思いましたが、度肝をぬくようなことをするのが彼女なんですよ。まぁ受け止めてもらえなかったとしても、相棒プリンちゃんが受け止めてくれたと思います(笑)彼女は結構アクティブです(笑)まぁいちお年齢設定的には、かいが一番上で、そのまま1つ下だい、さらに1つ下うみで、その3つ下があいちゃんです。かいくんとは実は5歳差というね。今回は少し年齢を上げてお送りしております。何歳くらいかは想像におまかせな方向で。もうきっと二度と描くこともない次世代小説。おつき合いありがとうございました! |