―――ありがとう・・・―――。
なにも考えず、なにも思わず、ずっとずっと眠っていた。
気が遠くなりそうな年月だったからだろう、自動的にすべてがフリーズしていた。
目覚めの刻がくるまで、ずっと・・・。
むかしむかし、もう遺跡としてしか残らない過去の時代。
私の遠い遠い故郷。
エレシーヌ・リネの記憶。
かつて、古代ゾイド人はゾイドイヴから生み出したゾイドによってこの星に無限の
繁栄と発展をもたらした。
けれども、その発展しすぎた世界には、あとは滅びしか進む道がなかった。
望んだわけではない。でも、発展した世界は人を狂わせる。
結果、それは終焉を迎えた・・・―――。
悲しい過去。悲しい記憶。
でも、でも、こんなこと思っちゃいけないってわかっているけど、
私はエレシーヌ・リネの記憶のトキは滅んでくれてよかった…なんて心の片隅で
思ってる。
もう、私はフィーネ・エレシーヌ・リネの記憶のトキしか望んでいないような気
がする。
いまだからそう思ってる。バン・フライハイトの存在がそうさせてる?
バンとの出会いは運命?偶然?奇跡?
なんでもいい、現在(いま)、ここに2人でいるのは誰も否定出来ない事実だから。
バン、私ね、すごくうれしかった。
あなたが私を見つけてくれて、
あなたが私を目覚めさせてくれて。
記憶の無い私を守ってくれてうれしかった。
何も分からない私を大事にしてくれてうれしかった。
「たのしい」と思うことを教えてくれて、
「うれしい」と思うことを教えてくれて、
「だいすき」と想うことを教えてくれて・・・うれしかった。
でも、私のために私の記憶を戻すために旅をしてきてくれたのに、私自身、記憶
が戻ることを恐れてきていた。
記憶が戻っても、あなたと今までどおりに接していけるだろうか?って。
だけど、
そんな私の不安をあなたは吹き飛ばしてくれた。
現在(いま)、記憶が戻っていても、何も恐れがない。
あなたは変わらず笑っていてくれるから。
言葉なんてなくても、その笑顔で心安らぐ。
「バン、ありがとう。」
バンに負けないような最高の笑顔で感謝の言葉を言おうと思うの。
ごめんね。いまはこんなことしか出来なくて。これからがんばってお礼するからね。
「フィーネ?どうしたんだ?」
「バン、ありがとう。・・・大好き。」
「!な、なんだよ、いきなり。…それよりこれからどこにいく?目的のゾイドイ
ヴも見つかったし…。」
照れながらそう言う。そう、もう目的は達した。
「…私、バンとならどこへだって行くわ!連れて行って!どこにでも!!」
どこへだって行く。どこへだって行ける!
「目的の無い旅ってのもいいかもな!よし!ライガー行くぞ!!」
ライガーの低い声が響く。そして走りだす。
胸が高鳴る。期待が高まる。さあ、行こう?
変わらない気持ちと変えられない過去をもって、変えられる未来へ。
新しい始まりへ。
―――・・・バン、ありがとう。ありがとう。本当に、ありがとう・・・―――。