−紅葉草紙− ロゼ・ドール
by 極小の錬金術師
物に宿る不思議な力。 それは時に人を魅了し、幻想を見せる・・・・・
・・・小さな街 「唐花」 染め物や織物などの工芸品が盛んである。
ここに1人の人形師がいた。 その名はシュウ。 別名 「薔薇の人形師」 傍らにロゼリア連れ、華奢で容姿端麗なその姿から美しい人形を作る。
作られた人形達は、どれも芸術品である。
人形師の中である言い伝えがある。
−作り手の力によっては、人形が魂を持ち不思議な幻想を見せてくれる−と・・・
「あーらー。シュウくーん。今日も頑張ってるわねーvv」
「・・先生。」 なんと、薔薇の人形師の師匠はハーリー。
別名 「茨の人形師」 「んもう。先生なんて言わなくてもいいわよ。」
「いえ、しかし・・・」 「そうそう。この前の人形さん、すごく好評だったわよ。さすがね。」
「先生ほどではありませんよ。」
「相変わらず謙遜ね。シュウくんったら。」
よく見ると、ハーリーは二体の人形を持っていた。
「先生、その人形は?」 「これはね、修理を頼まれた人形よ。かなりボ
ロボ ロでしょ?」 「腕や足の損傷がひどいですね。先生が修理するのですか?」
「そうしてあげたいんだけど、今度の展示会の人形がまだ仕上がってないのよ。」 「なるほど、僕に頼みに来たんですね。」 「そうなの!大丈夫かしら?あなたも沢山、修理や制作の依頼が来ているし、無理なら別の子に頼むわ。」
「大丈夫です。僕が直しますから。」
「ありがと。あとで、夜食でももってくるわねvv」
「ありがとうございます。先生。」
ハーリーから二体の人形を受け取ると、早速修理を始める。
「・・・随分、大事にされていた人形だな。」
口元を思わず緩めながらも、黙々と人形を修理していく。
シュウの人形を修理する速さは、誰にも負けず見事に人形は修理された。
時は・・・夕方を迎えていた。
「・・・まだ、夜食には時間があるな。せっかくだ。創作でもするか。ロゼリア、材料を持ってきてくれ。」
ちいさな助手・ロゼリアは部屋の片隅から箱を持ってきた。
新しい人形を作るための材料を。
と、徐にシュウは窓を見つめた。
季節は秋。 景色は、紅葉を映し出している。 赤や黄色の紅葉がちりばめられている・・・
「さてと・・・」 シュウは、材料を手に取り作り始める。
美しさを求めて・・・・ どれくらいの時が経ったのだろうか・・・
気が付けば、夜だった。 「・・・くん?」 「!」 「大丈夫?一回休んだ方がいいぜ?」
「ああ、すまない。集中しすぎていたようだ。」
「無理は身体に毒だぞ?ほれ、夜食持ってきたから。」
「ありがとう。」 弟子の1人が声を掛けてくれなければ、どうなっていたものか。
ロゼリアも心配していた。 「すまないね、ロゼリア。少し休むよ。」
再び窓を見上げると、空は星があり、月も出ていた。
「・・・美しいね。さてと、この人形ももう一息だ。」
シュウが作っているのは、アンティークドール。
彼にとっては、忙しい時間の中での、始めての自分の作品だった。
そして、3時間後・・・ 「完成だ。ロゼリア、みてごらん。」
そばでウトウトしていたロゼリアが、ゆっくりと起きて、その人形を見る。
「ローゼ!」 髪は、ショコラ色。 瞳は、ターコイズ。 来ているドレスは、うすい桃色。
ロゼリアは、とても喜んでいた。
「ありがとう、さてと・・・この子の名前はなんて付けようかな。」
季節は・・・秋。 どうせなら・・・春がいい。 「−ハルカ−・・・決まりだ。ロゼリア。この子の名前はハルカだよ。」
「ロゼ!」 ロゼリアは、嬉しそうにその人形の周りを回った。
「ロゼリアにも喜んでもらえて嬉しいよ。すっかり遅くなってしまったね。今日は、ここまでにしよう。」 シュウはそのまま眠りについた。
人間が、眠りについた後は不思議な力が動き出す。
月明かりに照らされる人形。 夜空は星が輝いている。 −人形師の力によっては、人形は魂を持つ−
そんな伝説がこの世界には存在する。
と・・・ カタッ・・・と物音がなる。 やがて、キイッと音が響く。 「・・・・あれ?ここは?」 か細い声で、誰かが口を開いた。
「動いてる・・・」 と、自分の手をまじまじを見つめる。
「なんで、ドレスなの?」 そう、この人形に魂が宿ったのだ。
−ハルカ−に。 隣を振り向くと、そこには眠っているシュウとロゼリア。
−この人が、私のご主人様− 人形は、本
能的に分かるのだ。生みの親が誰かと言うことを。 「私は・・・この人の力になれるのかな?・・・わかんないかも。」
こうして、不思議草紙が始まった。
翌朝、シュウが起きると・・・
目 の前で人形が見ていた。 「!!!」 さすがのシュウも驚きを隠せない。
「はじめまして。ご主人様。」
「え?」 「・・・私は、あなたが作った人形です。」
「僕が作った人形・・・まさか・・・ハルカ?」
「それが、私の名前ですか?」
「ああ、君の名前はハルカだよ。」
こうして、ドタバタな日々が始まったのだ。
ハルカが動き出して約1ヶ月・・・
がしゃーん! 「・・・・・・・・・・」 「いったー!膝ぶつけたー!」
「ハルカ・・・もう少し落ち着きなさい。」
「だって、狭いかも!」 「まったく、ここは運動場じゃないよ。美しくない。」
「はいはい。美しくなくてすみませんね。ご主人様。」 「なぜ、ご主人様を呼ぶんだい?」
「・・・人形は、作り手の名前を呼ぶことは出来ません。」 「どうして?」 「なぜだかわからないけど、そういう決まりなの。」
「そうか・・・・」 「?ご主人様?」 「いや、なんでもない。とりあえず、そこの球体関節持ってきて。」
「はーい。」 ばたーん! 「・・・・・参ったな。」 お約束のようにハルカは転んだ。
なぜ、人形は作り手の名前を呼んではいけないのだろうか?
シュウは、それが気になった。
こんなにも明るく動く人形だというのに。
お転婆で、大食いな人形だが。
すこし、溜め息を付きながらもシュウは、内心この時を楽しんでいた。
だが、その様子をハーリーは見逃さなかった。
「なんてこと!よりによってシュウ君の人形が魂を持つなんて!くうう!」
悔しがりながら、毎日その様子を伺っては、どうしてくれようかと考えていた。
「シュウ君?」 「!!先生。どうしたんですか?いきなり。」
と、ハーリーの横には、ハルカがいた。
「(わざとらしく)きゃああ!人形が動いてるわ!」
「すみません、先生。僕の人形なんです。」
「(ハルカの方をみながら)・・・そうなの。」
なんとなく殺気を感じたハルカ。
「・・・(なんかイヤな感じかも)」
この瞬間から、対決は始まった。
大きな廊下を、トテトテと歩くハルカ。
と、ハーリーが細い棒を差し出した。
「!きゃあ!」 とてんとハルカは転んだ。 「いたっ・・・!ハーリーさん?!」
「あーら、ごめんなさーい?あなたが小さくて見えなかったわv」
「・・・・(疑いのまなざし)」
ハルカは、そのあと2回ハーリーの罠に掛かって、転んだ。
「・・・?ハルカ?」 やっとの思いで、シュウの部屋についたハルカは、ボ
ロボ ロになっていた。 「もう!なんなのよ!あの人は!!」
今にも噴火寸前のハルカ。 「そのようだと、先生が何かしたようだね。」
「3回もこけたじゃないのー!」
「全く、しょうがない人だ。」
シュウは、ハルカを抱き上げた。
「へ・・・?」 「少し、目 をつぶってなさい。」
「・・・・」 そして、数分後。 「もう、いいよ。」 「わぁ・・・」 ハルカの来ていたドレスが、変わっていた。
うすい桃色から、淡いライムグリーンのドレスへ。
「これ・・・いいの?」 「ああ、ロゼリアと協力して作ったからね。」
「ありがとう・・・ございます。」
ポンポンとハルカの頭をなでるシュウ。 ハルカは、すこし顔を赤くてしていた。
翌日 ロゼリアと一緒に歩いているハルカ。
頼まれた材料を運んでいる。 「ロゼ!」 急に、止まったロゼリア。 「?どうかしたの?ロゼリア?」
ロゼリアは、不審に思った。 廊下が変だと。 「・・・?廊下がおかしいって?」
よく、見ればある一部分が光って見える。
「確かに。おかしいわね。」 と、ドンっと背中を押された。
「きゃあ!」 「ロゼ!」 「なるほどね、今度はロゼリアをある意味、護衛としたのね。」
「!ハーリーさん!」 「あら、顔に似合わず綺麗なドレスを着ているのね。」
「顔に似合わずは、余計よ!」
「それより、早く材料を持っていった方がよくってよ?ここは、この通路しかないんだから。」
「わかってるわよ!」 でも、あの光っている部分が気になる。
「でも、いかなくちゃ。」 そして、問題の場所の前までやって来た。
「ロゼリア・・・大丈夫かなぁ?」
ロゼリアは、試しにマジカルリーフを放ってみた。
すると、花びらがくっついてしまった。
「うそ・・・」 そう、この部分はどうやら、何かが塗られていた。
こんなことをするのは、たった1人しかいない。
「こんなことしてるくらいなら、仕事しなさいよ・・・・!」
と、ハルカは、呟いた。 「どうしよう・・・」 塗られている範囲は、そんなに広くはない。
飛び越えられる距離でなくても、なんとかできるかもしれない。
「・・・よし!ロゼリアは、先に行って。」
ハルカは、ロゼリアに花びらのまいで、先に飛んでいくように言った。
「そこから花びらをいっぱい出して!」
ロゼリアが塗られている部分に、花びらを降らしていく。
そして、その花びらの道をハルカは歩きだした。
「まずは・・・材料を!」 材料の箱を滑らせて、ロゼリアに渡す。
「あとは、自分で行くから。お願い!」
「ロゼ!」 ロゼリアは、急いで部屋へと向かった。
ハルカも、歩き出す。 でも、思ったより塗られた量が多かった。
と、ハルカの動きが止まった。
「う・・動けない。」 そう。この廊下に塗られていたのは、とりもち。
「ど・・どうしよう。」 「あーらー?どうかしたの?」
後ろで、声がした。 「ハーリーさん・・・。」 「ロゼリアに、花びらの指示をしたのは、なかなかだわね。でも、あなたは?」
「ううう・・・・」 「早くしないと、どんどん固まって一生そのままよ?」
「!!!」 せっかく、シュウがくれたドレスなのに・・!
「いい気味ね。おーほほほ・・・」
高笑いをしながら、ハーリーは廊下を歩いていく。
必死で動こうとすれば、ますます深みにはまる。
ドレスも完全にくっついてしまった。
「ロゼ!」 「ロゼリア!・・・しゅ・・・ご主人様。」
「やれやれ、あの人には本
当に困ったものだね。」 と、シュウは自らハルカの元へ歩いてくる。
「ええ!ご主人様、そんなことしたら・・・!」
「別に、構わないさ。」 ハルカをひょいと持ち上げた。
「ごめんなさい・・・ドレスが、せっかく作ってくれたのに。」
とりもちでべとべとになってしまったドレス。
ハルカにとっては、それが一番ショックだった。
「泣いちゃだめだよ、ハルカ。君は、笑っている方が愛くるしいんだから。」
「・・・ふぁい。」 ハルカをそっと、抱きしめながらシュウは言った。
「しかし、僕の傑作のドレスをこんな風にしてくれるとはね・・・・」 ロゼリアは、驚いた。 シュウが怒 っている・・・! 「すこし、考えていただかないとね・・・!」
−夕方 弟子の1人が夕飯を作っている。
と・・・ 「今日は、僕にやらせてくれないかな?」
「え?いいのか?」 「ああ。すこし・・・懲らしめたい人がいるのでね。」
「そっか・・・(汗)分かった。」
今日のメニューは、どうやら野菜炒め。
シュウの口が僅かに、歪んだ・・
「・・・失礼します。」 「あら?シュウ君?当番が違うんじゃないの?」
「でも、彼は、今日怪我をしてしまって、代わりに僕が作ったんです。」
いつも以上に笑顔を浮かべて、シュウはハーリーに近づいた。
「あら、今日は野菜炒めなのね。」
「ええ、いつもより気合いを入れて作りましたからね。じゃあ、失礼しました。」
「ありがとう。」 「・・・これで、少しが気付いていただけるとありがたいんですけどね。」
と、小さく呟いてシュウは、ハーリーの部屋を後にした。
1時間後・・・・ハーリーの部屋から絶叫が聞こえてきたという・・・・
翌朝 ドドドド・・・と走る音が聞こえてきた。
シュウの部屋に向かってきている。 「ちょっと!シュウ君!!」 「おや?先生?どうかしましたか?」
「あの野菜炒め・・・どういうこと!ものすごく辛いじゃないの!!」
「そうですか?チーラの実をいつもより気合いを入れて、混ぜただけですが?」
ハルカとロゼリアは、うーわーと思った。
よく見れば、ハーリーの口は、真っ赤に腫れていた。
これは、よほどの量である。 「どういうつもりかし・・ら?」
「それは、ご自分の胸に手を当ててみれば・・・おわかりでしょう?」
「・・・フン!」 何も言い返せなかったハーリーは、そのまま出ていった。
「ご主人様・・・?まさか・・・」
「さぁ?なんのことかな?」 シュウは、澄ました顔で作業を続けていた。
「・・・ご主人様、どうして人形が作り手の名を、呼んではいけないのか知ってる?」
「・・?どうしたんだい?急に?」
「呼べるときは、作り手にキスしてもらわないとだめなの。」
「!!」 「人形が愛されている証拠が、ちゃんとないとだめなの。抱きしめも充分その証だけど、 だから人形は、作り手の名を呼べないの。」
「・・・そうなんだね。もし、その証拠が示されたら、どうなるんだい?」
「神様から、ご褒美がもらえるの。」
「ご褒美?」 「うん・・・」 人形がもらえるご褒美とは、一体何なのだろうかとシュウは、思った。
シュウとしては、ハルカだ好きだ。 人形として、一つの作品として。
愛情を込めて。 自分は、ハルカに対して本
当は、どう思っているのだろうと考えた。 だが、すぐ迫っている悲劇にシュウは、気が付かなかった。
ハルカが動き出してから、すでに半年。
ハーリーとは、何かと言い合いながらも、なんとか過ごしてきた。
年に最後の展覧会も終わり、後かたづけをしているシュウたち。
「あーあ、つかれたなー。」 「ああ、全くだ。相変わらず先生も、人使いが荒い。」
「いえてる、いえてる。あ、どうだお前のあの人形は?」 「ああ。ハルカならロゼリアと一緒に、手伝いをしているはずだ。」
と、1人の弟子が叫んだ! 「おい!なんだよあれ!!」 ここから少し離れた場所にある倉庫から、煙が上がっていた。
「まさか・・・火事?!」 その言葉を聞いた瞬間、シュウは持っていた物を全て投げ出して、走っていった。
「な・・・何これ?」 シュウが駆けつけると、ハーリーが呆然としていた。
「先生!これは、一体?」 「分からないわ・・・!」 「とりあえず、人形を!」 「ええ。」 他のみんなも集まって、ポケモンを出し、消火を始める。
「なんで、火事になったんだ?」
「!あれだ!」 火事の原因は、客の1人が連れていたポケモン・ロコン。
「なんでロコンが・・・」 「!あ!あの男!」 「はーはっはっは!よかったなぁ、展覧会の終わった後でなぁ!」
「また、あんた来たのね!」 ハーリーが叫ぶ。 「また、会ったなぁ、茨の嫌味人形師さんよぉ!」
「なんだ?あの男?」 「なんでも、先生とライバル関係にある人・・・らしいぜ?」
「そんなことより、人形が先だ!」
「!おう!」 火がすこし弱まってきたところで、弟子たちは一斉に倉庫へ駆けていく。
「・・るか!ハルカ!ロゼリア!」
必死に2人を捜 す、シュウ。 どこにも見つからない。 外では・・・ 「あなた!こんなことしてただじゃ済まされないわよ!それに、嫌味は余計よ!」
「知った事じゃあないね。ちょっとしたボ
ヤだろ?」 「ボ ヤじゃないわよ!アリアドス!」
怒 りのハーリーは、ポケモンを出した。
「糸をはく!」 「ロコン!火炎放射!」 「な!アイツ、いきなり火炎放射かよ!」
「余計に火の粉を増やすだけだ!」
「ゼニガメ!ハイドロポンプ!」
ハイドロポンプがロコンにヒットした。
「ちっ!」 「ノクタス!毒針攻撃!アリアドス、コワイ顔!」
ダブルでクリーンヒットした。
「くそ!一旦引くか!」 「待ちなさい!」 「ハルカー!ロゼリアー!」 火は弱まったが、倉庫は崩壊寸前。
ほとんどの人形は、救出できたが、この2人が見つからない。
「・・・ローゼー!」 ロゼリアが、渾身のソーラービームを放った。
「ロゼリア!・・・ハルカは!・・・!ハルカ!」
気を失っていた。 シュウは、2人を抱えると走り出す。
だが、落ちてくる木材に足止めをくらう。
「くっ!」 「・・ご・・ご主人様?」 「ハルカ、気が付いたみたいだな。」
「ほかの人形たちは?」 「大丈夫だ、他のみんなが・・・」
「!!危ない!」 シュウの頭上には、木材が迫っていた。
シュウの腕の中から、ハルカは飛び出した。
そして、シュウを突き飛ばした。
−!!− 2人の距離が離れていく。 −ハルカーー!− −ありがとう・・・ご主人様−
シュウの視界から、ハルカは・・・消えた。 「おい!シュウはどうしたんだよ?」
「それが、まだ倉庫の中なんだよ!」
「何だって!」 「そういえば、あの男は?」 「先生が追いかけたけど、逃げられたみたいだ。」
と、その時だった。 倉庫から花びらのまいが放たれた。
「!!!」 「シュウ!ロゼリア!・・・?シュウ?」
シュウは、そのまま動こうとしなかった。 ロゼリアがいるが、ハルカはいなかった。
「まさか・・・ハルカは?」 「僕を・・かばったんだ。崩れてきた木材から僕を、守ろうと・・・」
「そんな・・・」 火が消えた後、雨が降り出した。
シュウは、炭だけになった倉庫にいた。
ロゼリアが花びらのまいを放った場所で、何かを探していた。
「かけらもないのか・・・?そんな・・・」
自分を守るために、小さな身体を盾にしたハルカ。
少しだけでも、形を見つけたくて・・・
「・・・お探しのものはこれかしら?」
びしょ濡れになっている、シュウの目
の前には、ハーリーが居た。 ハーリーが差し出したのは、小さな木箱。
「先生・・・これ・・・」 「不思議だったわよ、どうしてドレスだけ無傷だったのか・・・」
「!」 「一応、灰も集めたわ。あとは、あなたにお任せするわ。それに、そのままだと風邪を引くわよ・・」
と、傘を置いてハーリーは、その場を去った。
シュウは、おそるおそる箱を開けてみる。
そこには、ハーリーの言ったとおりに無傷のドレスと、灰があった。
「ハルカ・・・!」 数時間後、シュウは自分の部屋に戻っていた。
用意した物は、粘土。 そこに、「ハルカ」だった灰を混ぜる。
出来上がったのは、粘土で出来たハルカ。
それに無傷で残ったドレスを着せた。
「まさか、こうなってから気付くなんてね。」
自分は、ハルカを・・・ 「守ってやれなくて・・ごめん。」
そっと、キスをした。 だが、翌朝その「ハルカ」は、消えていた。
「ハルカ・・・・?」 そして、季節は流れ、春になった。
いつものように、作業に集中するシュウ。
だが、あの日から消えてしまった「ハルカ」の事を忘れてはいなかった。
と・・・ 「おーい!シュウ!お客さんが来てるぞ。」
「僕にお客・・・?」 「しかも、かわいいぞ!」 「・・・分かった。」 「あ、それともう一つ。」 「もう一つ?」 「その子、緑のワンピースを着てたぜ?」
「!」 客間に行くと・・・ 「わぁー!どれも可愛い人形、迷っちゃうかも!」
うそだろ・・・? ショコラ色の髪・・・ ターコイズの瞳・・・ あの口癖・・・ そして、なによりあの緑色の・・・
「やっぱり、この人形にしようっと、これ作ったのは誰ですか?」
「・・・僕です。」 「すごーい。とっても可愛いです。あの・・・出来ればお名前は?」
「・・・シュウです。あなたは?」
その女の子は、こう言った。 「・・・お久しぶりですね・・・ご主人様?」
「!!まさか・・ハルカ?」 本 当に・・・? 「そうよ、神様にご褒美をもらったの。」
「ご褒美・・・」 「やっと、あなたの名前を呼べるの。・・・シュウ。あなたが、キスしてくれたから。 あなたが、私をもう一度作って、呼んでくれたから・・・」
ああ、僕の愛しい彼女だ。 「おかえり・・・」 「ただいまv・・・シュウ。」
1人の人形師が作った人形が、神様からもらったご褒美は・・・人間。
自分の身を挺して、作り手を守ったご褒美として。
そして、人間として再び人形師の元へ帰ってきた。
大好きな人の元へ。 その日・・・沢山の花びらが舞ったという・・・・
まるで、2人の再会を祝うかのように・・・
物に宿る不思議な力。 物に宿る人の思い。 幻想を見せ、そして奇跡を起こした。
全ては、想いの成せる業なのかもしれない・・・
おわり
どうも、極小の錬金術師です。だいぶ時間が掛かってしまい申し訳ありませんでした。
俊宇 光
あとがき
どうにか、やっと完成しました。
シュウとハルカの物語。人形師と人形の話。
秋どころか、いつのまにか冬ですし。
クリスマスを過ぎてはしまいましたが、管理人様に楽しんでいただければ嬉しいです。
ありがとうございました。 極小の錬金術師
ずっと載せるのが遅くなってしまってすいませんでした!!素晴らしい超大作をうちのサイトに載せられるなんて本当に素晴らしいです!しかも素敵シュウハルパラレル。ハーリーさんがすっごいいい味出してた気がします(笑)っていうか素敵なシュウハルに萌え萌えしてました。人形と人形師っていうそのパラレル設定も素晴らしいですし、何より文才が素晴らしい。すごい綺麗な言い回しとか書き方とか、かなり憧れます。本当にどうもありがとうございました。