いつだって彼は あたしの一歩先を歩いている どんなに追いかけても 追いつく気がしないの ね、グリーン。 【くちびるに熱】 「ただいまー…」 暗い玄関に響く、彼の声。 ほんとは聴こえているけど、今日は迎えになって行ってやらない。 「ブルー…?寝たのか?」 上着を脱ぎ、ソファに投げてその上に座り込む。 彼のことが時々 遠く感じることがある こんなにも傍に居るのに ガチャ、という音と月明かりと共に部屋に入ってきたひとつの影。 声を聴かなくても誰かなんて、わかる。 こんな時の 彼の哀しそうな顔すらも 「…ブルー。どうした?」 「……なんでもないよーだっ」 「あー、そう」 そう言って沈黙。 あたしは枕に顔を押し付けたままで 彼はベッドに寄り掛かって座り込む 聴こえるのは ふたりの呼吸の音と 時間が進む音だけ 「ブルー」 トクン。 少し あたしの心臓は震えて 目を閉じたまま彼の声を探した 「…何処にも行かないよ、俺は…」 「グリーン…?」 「ブルーには俺の背中がそんなに小さくみえてるのか?」 ギシ、とベッドの軋む音が部屋に響く。 あたしは自然と上体を起こして、彼と向かい合わせで座り込む。 すっと 彼の手があたしの髪を撫でる 暗い部屋では彼の表情が見ないから 今回ばかりはどんな顔をしてるかわからなくて 怖くなった 「俺は此処だよ」 「…わかんないよ」 「…此処だよ」 ぎゅっと 繋がれた手は冷たく感じた 「嘘…でしょ」 「え?」 「グリーン…あたしのこと、ほんとに好き?」 「……どうして?」 どうして? わかるでしょ? あたしこんなに好きなのに どうして好きだって 言ってくれないの? 「ほらっ。答えられないんじゃないっ…!!グリーンなんかっ…」 こぼれた涙は 冷えたふたりの手も濡らした ちからいっぱい 手をひいたつもりだったのに いつの間にか 彼の腕の中に居た 「は、放してっ…!!あたしっ…」 真っ白だった ただ記憶に残っている確かなものは くちびるに残る熱 「……グリーン…」 「…うるさい、ブルーのせいだ」 「今…何したの?」 「なにも」 「うそつきっ!何したの!?」 「あーっ!!!何回も繰り返すなっ!!!」 声を荒げる姿なんて ほとんど見たことないのに 厚い雲の切れ端からこぼれた光が 彼の顔を照らした時は 頬が赤くなっていた 目の前の未来にすこし 彼の背中が見えた気がして すごくすごく 嬉しかった 「グリーン、大好きよ」 「ん」 あたしから彼のくちびるへ熱を伝えて ぎゅっとずっと放れないように 抱きしめ合いました。 END
「で、なんでそんなに機嫌悪かったんだ?」 「グリーン、今日あたしがつくったお弁当忘れたでしょ」 早起きして作ったのに、と頬を膨らませて テーブルの上に置かれたままの弁当箱を指差した。 「…それだけ?」 「それだけって何よ!!あたしのこと好きじゃないんだっ!?」 「好きに決まってんだろ」 「え…?」 「…ん?」 沈黙 「グリーン、今なんて…?」 「さ、明日も仕事だし早く寝ないと…」 「逃がさないわよ、グリーン!!!」 夜が明けるまで、弁当箱の置かれたテーブルを挟んでブルーの拷問に耐えた 寝不足気味のグリーンは今日も元気に仕事に励んでいます。 H19.12.1
おまけ。