--過去、『災厄より産み落とされし者』と呼びなわされた種族が存在した。
--彼等が居る場所には、必ず何らかの騒動が起こった。
--それ故、彼等は常に逃げ回る生活を送らなければならなかった。
--そして…………度重なる戦乱により、人心が乱れ、それは起こった。
--彼等が居た場所…………その全てに、人々は争いを持ち込んだ。
--そして………居場所を無くした彼等を、人々は………………
--人の歴史から消えたその種族を…………人々は、密かに語り継いできた。
--許される事のない、永遠の罪として………………
--その種族の名は………………『幻夢族』………消え去りし、儚き者の意を
持つ………悲しき、名………………人々に悪夢を見せ続ける………今なお
畏怖(いふ)さ続ける、名………………
--夜の街道を、一人歩いている影があった。
いや………正確には、少年一人と『何か』一つが街道を進んでいた。
「あ〜あ………また追い出されちゃったね」
「シュミ〜〜〜〜」
少年が、隣で浮いている『何か』に話し掛けた。
その少年は、灰色に薄茶色を混ぜたような色の、下の袖口が異様に長い上着
を着ていた。
ズボンも同じ色のものを着用していた。防寒対策なのか、上着の上に膝ぐら
いまである、裾に奇妙な文様の刺繍がしてある赤いベストのようなモノを着て
いた。それを、襟元でクロスさせた赤い紐と腰の辺りに巻いてある茶色い帯状
の布で固定しているようだった。
結んで余った茶色の布は、結び目のある左腰の辺りで結び目を隠すように広
げられている。右腰には、柄も、峰や切っ先などにある装飾も、全て赤で染め
られた剣が携えてある。
頭には、やはりこれも防寒対策の一つなのだろう、大きな腹巻に袖をつけた
ような茶色の帽子を被っていた。
服だけを見れば………旅人に見えるだろう。
しかし、その容姿は『どこかいいトコの坊ちゃん』という形容詞に、見事当
てはまるようなものだった。
白に限り無く近い銀色の、あまり切り揃えられていない短髪、まだ幼さが残
るあどけない顔立ち、ルビーのような大きめの赤い瞳、まだ発育途上のその体
は、見事にバランスがとれていた。さらにその耳には、髪と同じ色のピアスが
填めてあった。
だが、そのような容姿をしていても、その服装が似合っていること、手から
手首にかけて巻かれている包帯などから、彼が旅人だと分かるだろう。
何よりの証拠が………その額にある『夢』の文字だろう。
今は、もはや伝説としてしか残っていない『幻夢族』………彼等と別の種族
とを区別する最も、ファクター………………それは、『幻夢族』だけが持つ身
体的特徴………即ち、額の『夢』の文字の有無。
この文字は、ある種の痣(あざ)のようなもので、絶対に消える事はない。
遺伝子の突然変異により、出来たとされる………一種の、紋章だ。
その『夢』の文字を額に持つ少年に話し掛けられた『何か』は、情けない顔
で申し訳なさそうな声で返事をした。
おそらく、先程の声は鳴き声なのだろう。
妙な鳴き声の『何か』は………………まるで蜜柑に尻尾と羽根が生えたよう
な形をしていた。髪の代わりのように、葉っぱらしきものが一枚頭から生えて
いる。
確証はないが、生物だと思われるその『何か』は、全身が赤かった。
目までが赤く染まっていて、一体どこが目なのか、目をこらさないと分から
ない程だった。
蜜柑に尻尾と羽根が生えたような姿の『何か』は、小さな羽根をパタパタさ
せながら、少年と平行して飛んでいた。
「しっかしまさか、イキナリ部屋に入りこんで来るとは思わなかったよ〜。
おかげで、シューちゃんが生き物だってバレちゃったね」
「シュム〜〜〜〜」
少年は明るく話し掛けていたが、シューちゃんと呼ばれた蜜柑型の生物は、
さらに落ち込んだ声を出した。
「シューちゃんは全然悪くないよ。あれは、ホント、事故だったんだから」
先程と変わらず明るく話し掛けてくる少年を見て、蜜柑型の生物は少し明る
い顔をして、少年に飛びついてきた。
………『幻夢族』に関する伝承の中に、こんなものがある。
【彼等に付き従いし珍妙なる生物、神の力を封じ込められし大いなる使徒、
是即ち、“力”なり】と。
少年は優しく蜜柑型の生物を撫でてやると、変わらず明るい口調で言った。
「さ、早く次の町に行こう♪」
「シュミ!」
元気良く応答した蜜柑型の生物と一緒に、彼等は街道を進んで行った………
--暗闇が支配する森の中、銃声が夜空に高らかに響き渡った。
「ふん………弱すぎる」
銃口煙を上げている銃を持った青年が、つまらなさそうに吐き捨てた。
彼の目の前には、左胸と右胸の中心と左胸の間………心臓をピンポイントで
打ち抜かれ、赤黒い液体が流れ出ている男の死体が、転がっていた。
青年は、その神秘的なエメラルド色の瞳に嘲り(あざけ)の色を浮かべなが
ら、既にもの言わぬ男の前を通り過ぎていった。
青年が男の前を通り過ぎる瞬間………男が手に握っていた紙が風に流されて
いった。
それには………青年の顔と特徴が書かれてあった。
バンダナで上下にわけ、上のほうが髪が多くなるようにし、後ろでまとめて
縛り、それでもまだ肩ぐらいまである長い前髪を、邪魔にならないよう、きっち
り左右にわけてある青く長い髪、美青年といえる程整った顔立ち、吸い込まれ
そうなエメラルドの瞳、そして耳には金環のピアスに、球形状のピアスがいく
つか填めてある。
青年そのままの顔が書いてある紙には、特徴の蘭にこう書かれていた。
『長身痩躯の男で、全身を包む黒いコートのような服を着ている。服の右肩
のすぐ下あたりの所に、十字架の刺繍がある』
………それは、そっくりそのまま青年に当て嵌まった。
さらに、こうとも書かれていた。
『WANTED!!
銃使い。捕らえたものには金貨一千万枚。生死は問わず』
………手配書だった。別に珍しい事ではない。お尋ね者などこの世にゴマン
といるし、そいつらを狙う奴等も腐る程いる。
夜の森を歩きながら、青年は低く呟いた。
「次は………次こそは………………早く逢いに来てくれ………」
その美しい顔に、懇願(こんがん)の色を浮かべながら…………
--夜の酒場は、いつにも増して騒がしかった。
その中を、小さな影が左手に盆を持って、客席とカウンターを忙しそうに行った
り来たりしていた。
「え〜っと、次は………」
その影………まだ少年とすら呼べないような、小さな男の子は、右手に握って
いる紙--注文表のようだ--を見ながら、右往左往して、盆に乗っていた酒や料
理等を配っていた。
やっとカウンターに戻ると、すぐに次の料理が出され、男の子はそれを受け
取っては客席へと運ぶ作業を延々と続けていた。
ふと男の子は、カウンターの上の壁に掛けてある時計に目をやった。
「そろそろ交代の時間だ………」
男の子がそう呟くと、カウンターの右後ろにあるドアから、礼服のようなも
のを着た男が出てきた。
おそらく、男の着ている礼服のようなものが、ここの酒場のウェイターの制
服なのだろう。
周りを見てみると、その男と同じような服を着た男達がせわしなく料理や酒
などを運んでいる。
だが男の子だけは、一人違う服を着ていた。
上は、袖も丈も少々長くダボダボな、青と水色を合わせたような色のコート
のような上着。下も、足首あたりで先を曲げている、上着と同じ色の長めのズ
ボン。
しかし、違うのは服だけではなかった。
周りには色んな色の髪の人間がいたが、橙っぽい色の髪をしてるのは男の子
だけ。瞳の色も、アメジストのような濃紺色の瞳は彼だけだった。そして、何
よりの違いは、ほったらかしにしているような橙色の短髪の左右から出ている、
犬や猫のような、大きな耳だった。
右耳には特徴的な、片方の鎖をとったネックレスのようなイヤリングをして
いた。
一人、浮いているような男の子は、男が出て来たのを目で確認すると、お互
いに軽い会釈をし、男が出てきたカウンターの右後ろにあるドアへと歩いて
いった。
ドアをくぐると、男の子はすぐに二階への階段を駆け上り、自分の部屋へと
走りこんだ。
そして、ベッドに身を投げ出すと、その愛らしい顔からは疲労の色が濃く浮
かび、まだ小さなその体からは、関節やら何やらが悲鳴を上げた。
「はぁ………慣れちゃったけど、やっぱり疲れるなぁ………」
男の子はそう独り言を言うと、すぐに安らかな寝息をたて始めた………
--草原にある小さな集落に、夜空に浮かぶ星の光りが降り注いでいた。
「………一体、何処まで行く気ネ………」
身じろぎもせずに、ずっと立っている影の主が、そっと呟いた。
まだ少女と言える年齢の影の主は、集落より少し離れた所で、まるで思いを
馳せるかのように、空を見上げていた。
少々ウンザリとした感じを含ませた、寂しさと淋しさを同調させたかのよう
な声を出した少女は、苦しさと、切なさと、少しの怒りを混ぜたかのような瞳
を夜空に向けながら、小一時間ほどずっと立ち尽くしていた。
と、急に少女は手で肩を抱き、身震いをした。
「何だか、急に寒くなってきたヨ………」
無理もない。
ただでさえ、昼と夜の温度差が激しい事で知られる、この草原地帯。
そこに、黄緑色の上着と、その上に、左右を胸元より少し上の辺りと、胸と
腹の中間辺りにある深緑色の紐で繋げている、右胸より少し下辺りに猫の顔の
アップリケがしてある、緑色のベストのようなものを着ていて、下は濃緑色の
さして厚くもないズボンという、薄着と言えるほどの服装で立っていたものだ
から、寒気を感じたとしても不思議ではない。
逆に、小一時間も寒さを感じなかった事のほうが驚きだ。
背中に黄色とも金色とも言えないような色の羽がついたバックパックを背
負っているが、それが保温効果のあるものとは思い難い。
故に、寒いのに気付かぬほどに精神集中していたのだろう。
ふと、少女はサファイアの如き群青色の目を細めると、その可憐で可愛ら
しい顔に、悪戯好きの子供のような笑みを浮かべた。
「………分からないなら、確かめるまでネ………」
不敵な笑みをもらしながら、本来、髪で造ったお団子があるべき二カ所を、
くるくる巻きにして束ねた、茶色の短髪を風に弄ばせながら、少女は集落へ
と戻って行った………
--偶然とは、常に恐ろしいものである………それを、『運命』と呼ぶこと
は容易いが、それで全てを片付けられる程、人は上手くできていない………
彼等は、今はまだ朧げ(おぼろ)にしか理解していないだろうが、いずれそ
の言葉を良く理解するようになるだろう………それは、彼等もまた、『偶然』
という名の天災の被害者なのだから………………
--ここに、失われし者達の悲しき『協奏曲』が奏でられる………
こった・・・・・・(^_^;
いや〜、やっと書き上げる事が出来て一安心です。
しかし・・・・・・しかし!!説明文が長〜〜〜〜い!!なんてこった・・・・・
いや、短く出来ない事もないんですけどねぇ・・・・・・・・・やっぱり、
元絵があるんだから、ちゃんと表現しないと・・・・・・・って、ただの言
い訳ですな(泣)
私の作品にしては珍しく科白も少ないし………………ま、プロローグという
性質上、ベラベラ喋るのは何かな〜?と思ってした結果なんですが………………
全体的に短いような、長いような(^-^;
中途半端だなぁ………………ホントに。
さて、まぁ………この作品は、今現在のこの世界にある「民族」………それ
を少し抽象的に著したものです。
「族」という形に直し、もっと複雑に分けてみました。それと同時に、圧倒
的多数に対する少数という形もとってみました。
そして、分け易いようにそれぞれの「族」に別々の力も与えてみました。
同じなのに、違う………………「族」というそれは、個人に対してそう思う
より、強く現れます。
自分なりにそれを著し、どう解決していくかを、自分なりに考えたいと思い
書いた作品です。………………これが、皆さんが考える材料になれば幸いです。
ちなみに、一応「族」の前の大きな分け方として、「属」というのもあります。
これが、彼らの旅にどう影響していくか………………作者として、きちんと
見守っていきたいと思っております。
ん?………………失礼、客がきたようです。それでは、また………………
客が来た様子をのぞき見してから下↓をごらんください。
ど〜でしたでしょうか?
初のゲストを交えての後書き!!結構書いてて楽しかったですよ〜〜〜♪
もっと書きたかったんですけど………………これ以上書くと、収拾がつかな
くなってしまうので。
この作品は、勢いで始めた割には、かなり愛着を持っています。
深いテーマという面では、さして「half
angel」と変わらないんですが、こ
れはこの世界に密着しております。
さて、自分と同じであり、違うものをどうやって認め、受け入れていくか?
……………それが、この作品に課せられた問題ですね。これを、皆さんが本
気で考えてくだされば……………と思います。
ですが、まぁこれはあくまで私個人の考えですので、普通に楽しんで読んで
頂いてもいいんですけどね。
というか、楽しく読みつつ考えて欲しいというのが、願いです。
欲張りですな、私って(^-^;
では、これの次は番外編を送りますね♪
それでは、また。
んが執筆するという合同小説となりました。どうでしょう?今回は挿し絵を
もあって豪華な仕上がりとなりました。どうもどこにイラストを入れていい
のか分からず、最後にもってきてしまいました。すみません。もし自分でこ
こにおきたい!!っていう要望がありましたら、どうぞです。
えーファンタジー系の種族をもとにした話かな?なんだかタトゥーラーに
近くて親近感もつますな…。イラストもあの手配所の彼が好きだ。かっけー
まじで。
この話はこれからが本番。どう話が続いていくのかこれからが見物ですね。
みなさん期待しましょう。感想をのべてくれると作者さんたちは喜びますよ。
BBSにお願いしますね。
今回もありがとうございます。またどうぞよろしくお願いしますね。