雪野 凍楼様 グリブル小説「〜願わくば空にさらわれぬ青でいたい〜 」
 

 

〜願わくば空にさらわれぬ青でいたい〜

 

深く澄み渡った青い空。
どこまでも果てしなく続く空の青。

フワっとそよ風が緑の草原を撫でる。
赤や黄など、色鮮やかな花が咲いている草原の緑。

果てしなく広がる緑と青の交わる海。

アタシはこの場所が苦手だった。
マサラを見渡せるこの高岳が。

アタシが空にさらわれた、この高岳が…

 

 

グリーンがこの場所を好きなのは知っていた。
でもアタシは好きにはなれなかった。

この場所に来ると、どうしてもあの日の事を思い出すからだ。

グリーンには話していなかった。
アタシがこの高岳で忌々しい鳥ポケモンにさらわれた事を。

だからこそ、彼はここに来る。
アタシがこの話をすれば、彼は遠慮してもうここには来ないはずだから。
でも、アタシはそんなの嫌だった。
アタシのせいで彼のお気に入りの場所を奪いたくないから…

『いやぁぁぁぁぁっ!!』

アタシが巨大な鳥に追いかけられている。
これは遠い遠い記憶の中のアタシ。
目には涙をため、顔は恐怖で歪んでいる。

必死に逃げても無駄。
叫んで助けを求めても無駄。
何をしても助からないの。

だから、毎回捕まってしまう所で、夢は終わっていた。
毎回、諦めた所で、夢は終わっていた。
なのに今日は違った。

『こないでっ、いやぁっ!!』

これは…今のアタシ?
一体何から逃げているの?

目の前には空しかなくて。
上も下も右も左も前も後ろも
どこまでも果てなく続く青しかなくて…

『いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

青しかない世界。
まるでアタシがこの世でたった独りと嘲る様な。
まるでアタシが空に消え行く様な…

 

 

「いやぁぁぁっ!!」

「!?」

あまりの恐怖でアタシは飛び起きた。
怖くて怖くて怖くて怖くて。
涙が止まらなくて。
心臓が張り裂けそうで。
息が止まりそうで。
必死にアタシは息を吸う。

「……っ」

今度は息が吐けなくなって。
アタシはぼんやりと死を意識した。
この場所で本当に空に溶けて消えたら、彼はどう思ってくれるだろう。
怒る?悲しむ?喜ぶ?
それとも何も感じない?

でもこの場所の空に溶け込むならそれでも構わない気がした。
だってこの場所なら、いつでも彼を見守る事が出来るから。
彼が居るなら、そんな事が苦でもない気がしたから…

「ブルー!?」

誰かがアタシの名前を呼んでいる。
でももう直ぐ何も聞こえなくなるし、
何も見えなくなるわね。
だって息が吐けないんだもの。

そう考えていると、唇に暖かい感触が触れて…

段々と息が楽になってきた。

「はぁ…大丈夫か?」

唇から暖かい感触が離れ、
息も整い、ぼんやりとした意識も段々と鮮明になる。
目の前に居るのは、大好きな彼。

「ん…ぐ、りーん…?」

アタシがそう呟くと、グリーンは怒ったような、ホッとしたような表情を浮かべた。
それからきつく、アタシを抱き締める。
まるでアタシがどこへも行かないように。
まるでアタシが空へ消え去らないように。

「…俺に無断でどこへも行くな。」

彼の怒ったような低い声。
でもその言葉に涙が零れるのを感じた。
そんなアタシに構わず、グリーンはただただアタシを抱き締めた。

 

 

深く澄み渡った青い空。
どこまでも果てしなく続く空の青。

フワっとそよ風が緑の草原を撫でる。
赤や黄など、色鮮やかな花が咲いている草原の緑。

果てしなく広がる緑と青の交わる海。

アタシはこの場所が苦手だった。
マサラを見渡せるこの高岳が。

アタシが空にさらわれた、この高岳が…

 

空は相変わらずどこまでも青くて。
何に交わるわけでもなく。
嫌になるくらい青いけど…

でも、こんな青を必要としてくれる緑が居る。

ここから見える青と緑の交わる海は、アタシを繋ぎ止める彼。
唯一アタシをこの世界に留めてくれる、細い細い糸。
いつ切れるか分からない糸だけど。

アナタがアタシを求めてくれる限り、
どんなことがあっても、この糸は決して切れる事は無いの。
たとえ空に青が取り残されても…

 

 

「ねぇグリーン」

「…何だ?」

アタシを突き放さないで、優しく顔を覗き込んでくれる彼。
いつまでもこんな日が続けばいいのに、と思いながら、
アタシは彼の唇に手を添えた。

「なんでグリーンがキスしてくれたら、楽になったのかしら、って。」

アタシの問いに彼の顔は微かに赤に染まる。
死にかけていたのに、何故か鮮明に覚えているわ。
彼は言いにくそうに目を泳がせると、小さく呟くように言葉を紡いだ。

「お前の症状が過呼吸だと思ったからな…
二酸化炭素を吸えば楽になると思ったんだ。」

彼の言葉に今度はアタシが赤くなる。
でもそんな顔グリーンには見せたくなくて、アタシは彼の胸元に頭をつけて俯く。

二酸化炭素を吸えば。

人の吐く息は二酸化炭素。
つまり、彼がしたのは人工呼吸で…

「……お望みなら、いつでもするが?」

「……バカ。」

晴れ渡る青い空。その青空の下に2人の男女。
優しく微笑んでいる男と、その男の胸で赤面する女。
青い空は全てを見ていた。
深く傷付いた心を癒すように、ゆっくりとその色を朱に染めながら……


〜おまけ〜

「夕暮れ…綺麗。」

赤く染まり行く夕焼けに、ブルーはうっとりと目を細める。
空も海も草原も、赤に包まれる空間。
そう。昼間は青くても、夕方になれば空は赤く染まるし、
夜になれば紺色の空に星々が煌くのだ。
そんな当たり前の事にも気付かず、悲観して。
ブルーは恥ずかしくて頬を染めた。

「もうこんな時間か。帰るぞ。」

グリーンが立ち上がると、強引にブルーの手を引き、歩き出した。
もう少しこの光景を見たかったブルーは、少し残念そうに夕日を振り返った。
そして何故かしかめっ面のグリーンを見て不思議そうに首を傾げる。

「(そう言えば、毎回夕方はここには来ないわね…
なんで何時も昼なのかしら?)」

ブルーは首を傾げるも、繋いだ手の平から伝わる温もりが嬉しくて、小さく微笑む。
そんな中グリーンはしかめっ面で内心考え事をする。

「(青が赤に染まるところなんて見たくも無い)」

空の青をブルーに、夕方の赤をレッドに重ねて、グリーンはムッとしていた。
ブルーは自分を選んでくれたのに。
グリーンはどうしても夕暮れを好きにはなれなかった。

 

「ねぇグリーン。」

「…何だ?」

夕焼けの小道。
手を繋ぐ2つの影。

「好きよ。」

赤に染まる青と緑の瞳。

「…俺もだ。」

その影は向かい合い、ゆっくりと1つに重なった。

「ずっと、な。」

「大好きよ…

彼女の言葉は彼の唇に塞がれ消える。
赤い夕日が2人を祝福するように最後に強く輝き、姿を消した。

藍色に染まる夜空。
浮かぶ月の周りには、満天の星空が広がっていた。

 

END。


はい、すみませんと言わせて下さい!
姉さんが少し弱い話ですね。
悪夢を見たんですよ。
それを兄さんが…!!
やはり雪野はグリブル無しじゃ生きていけないようです。


雪野様にいただいた作品第2弾でした。載せるのが遅くなってしまって本当に申し訳ないです。もう半年もたってしまいましたが、本当に感謝ばかりはいつまでたっても忘れてませんので!!
今回いただいた作品は姉さんの弱さを思いっきり出してくれた作品でした。姉さんが弱いのが、あたしはものっそく好きなので、読んでいてうはうはしました!!もうとにもかくにも兄さんがすっごく姉さんを愛してるのが萌えです!!これくらいうちの兄さんも愛してくれたらいいのに!!!
本当にどうもありがとうございました!!!

俊宇 光