冷たい手
何の変哲もない朝が来る。いや今は昼だろうか…。
「…」
頭がまだうまく働かず、やたらと広い部屋に入る陽の光を、ただただ見つめていた…。
まぶたを何回か閉じる。あたりをきょろきょろと見渡せば、4分早い時計に目が行った。
「…11時15分」
正確な時間は11時11分か、なんて頭の隅に流しながら、勢いよく、布団を乱す。
階段を、とんとんっという音を立てて下りていく。誰も居ない家での音は、妙に響いて聞こえた。
「おはよう」
なんて言ったところで、帰ってくるわけじゃないのに、10何年間続けてきた慣習は抜けないものだ…と心の中でぼやく。
「…あーおはよう。っていうかこんにちは?」
「…」
帰ってくるはずのない言葉に、思わず覚醒しきってない頭が、音を立てて起動するような感覚に苛まれた。
「シオン…」
顔を上げれば、そこには見知った顔があって…。
彼、シオン・ルーファスは、この家を預かっている身である、ラリス・リンクスの自称彼氏である。
いつものごとく、不法侵入してきた、と言ったところだろうか。
「よっ」
彼はなんの悪びれもなく、この家の主に軽く挨拶をした。
「というかなんで半裸なの」
彼女がまず部屋に入って頭を動かすの時間がかかったのは、目の前にいた本人が下にズボンを履いただけの半裸状態だったからだ。
「あー風呂借りた」
彼女の質問に、やはり悪びれもなく彼はたんたんと答える。
「…自分の家で入れや」
文句を言いながらも、どうせいつものことだ、と彼女は流す。そして、彼の横を素通りし、台所へと向かった。寝てるだけでも腹は減るものだ、と思いながら。
「…半裸でいることには突っ込まないんだな」
そこに突っ込んでほしかったのか、と思う彼女の背中を、彼は視線だけで見る。
「男の半裸なんかクアルで見飽きてるからね。今更気になんかしないわ。あいつなんかパンツだけでそこら中歩き回ってるわよ?だいたいにして、私にきゃあとか叫んでほしかったわけ?」
まるで見下すような顔で、そんな言葉を口にする。
クアルとは、ラリスの弟である。実はこの家はその弟のものなのだが、軍に所属しているためか、やたらと金の所持量が多く、この家も8LDKもある豪邸と呼ぶべきでかさがある。しかし軍属は寮を設けられ、滅多にこの家に帰ってくることも少なく、今ではもっぱら姉であるラリスの家、といった認識が強くなっていた。
「あー、それはそれでいいな」
なんて言いながら、彼はくっくっと笑って見せる。
「殴るよ」
「ごめんなさい」
彼女が怒りを言葉に載せてこぶしを握ると、シオンは両手を上げて降参の意思を示した。彼らの日常のやりとりはこんなものだ。
「…どうした?」
殴るためにか近づいてきたラリスは、シオンの前で動きを止める。
「…なんかちょっと違う」
「は?」
彼女はそっと、彼の胸へと手を伸ばす。
「クアルは筋肉質的な感じなのに妙に細いけど、シオンは違うのね」
彼女は頭に弟の半裸姿を浮かべながら、目の前の彼と比較した。
「まぁ俺あんま運動してないからな。クアルみたいには筋肉はついてないだろうな…って冷てっ!?」
彼は何か冷たいものに触れたように慌ててその場を離れる。
「あーごめん」
冷たいものの正体は、彼女の手。彼の胸に、彼女の指先が触れたのである。
「おま、なんでそんな冷たいんだよ」
彼は慌てて彼女の手を掴む。思わずその冷たさに顔をしかめた。
「ん?冷え性だからかな?」
とくにそれを気にするでもなく、彼女はしれっと答えを出す。
「冷え性って、おまえは更年期障害かよ」
顔をしかめたままの彼は、心配そうにそんな言葉を口にするが、
「私はまだ23だ!」
彼女にはそれが嫌味に聞こえたようで…。ふざけるな!と言うように、彼の手を振り払われてしまう。
「冷え性は甲状腺機能低下、低血圧、貧血、膠原病、レイノウ病なんかの病気で現れる症状だったりもするけど、俺が見た限りじゃそれじゃなさそうだから。ってことは、運動不足、過食、偏食、冷暖房の当たりすぎ、ストレス、夜型生活のどれかだから、この中でおまえが当てはまるのは運動不足とストレスかな?」
さすが医者というべきか。冷え性だという一言で、その症状で思い当たる病気名と、そうなった原因の一覧を言葉に挙げていく。あげくのはてには彼女をよく見ているのか、その原因をぴたりと当ててしまった。
「なんで何が当てはまるか分かるのよ…」
自分のことを知ったような言われ方にむっとしたのか、露骨に顔をしかめた。
「過食、偏食は俺が食事作ってるんだからありえないだろ?このところ寒くも熱くもないから冷暖房の問題でもない。おまえはだいたい夜型人間ってわけでもないだろ?っつーことは、残りは運動不足とストレスしか残らないじゃないか」
たんたんと言葉を並べられてしまう。
「…」
彼女は事実すぎて、言い返す言葉も思いつかなかった。
「薬でも出してやろうか?冷え性に効く薬とか結構あるけど」
そんな彼女の反応に満足したのか、彼は少し微笑した。
「いいよ別に。薬に頼るのもなんだかなーって感じだし」
ラリスはそんな彼に腹立たしさを覚えながら、再度台所へと戻っていく。
「じゃあ運動でも一緒にするか?」
苦いのが嫌なだけだろう、という言葉を彼は飲み込んだ。
「えーめんどい。いいよ別に。そこまで困ってないし。夜寝るときにちょっと困るだけで。寝ちゃえば一緒だし」
彼女は投げやりにそんな言葉を吐きながら、何を食べようかと冷蔵庫を開けた。
「一緒に寝てやろうか?」
彼はそんな彼女の言葉に笑いながら、そんな冗談を口にする。
「殴るよ」
今度は棚から出していたフライパンを片手に、彼女は怒りを形にする。
「ごめんなさい」
けれど返し方はさっきと同じ。
「…もう」
ラリスはわざとらしくため息をつき、呆れてフライパンをガスコンロに置いた。
「まぁ、おまえがいいならいいけどな」
彼は頭を拭いていたタオルをソファにかけると、ラリスに近づき、優しく言葉をかける。
「それに、手が冷たい奴は心があったかいって言うし…」
なんて歯の浮くような台詞を吐きながら、再度彼女の手を取り、優しく包み込む。
「じゃああったかいあなたは心が冷たいの?」
そんな浮ついた台詞で落ちるような彼女ではない。
「たとえそうでも、君の暖かさで癒されるからいい」
だけど、そんな言葉が帰ってくるのも彼にはお見通しで。
「…人任せね」
彼女はその台詞に一瞬目を見開くが、ふっと笑みを浮かべて、呟いた。少し赤みがかった頬に、さらにシオンも笑みを浮かべる。
「ラリスに依存しきってるからなー」
なんて軽い言葉と共に、さらに笑みを深めた。
「…どうでもいいけど、早くなんか着て来い、馬鹿!」
ラリスは持ってたフライパンで叩くふりをして、彼をその場から追いやる。少しばかり早まる鼓動に、ちょっと悔しい気持ちを抱えながら。
2003年11月17日 Fin
あとがき
いやん、よくわかんな〜い。ただ半裸なシオンさんと、それに触れるラリスさんを書きたかっただけです〜。っちいうかエロ〜い。なんかこんなんばっか?っていうか私の趣味がいけないのかしら。鎖骨とか、広い胸板とか好きです(笑)なんか体よさそうな人とかを脱がしたくなる性分(待て)いやいやうそですよ。でもこのところ半裸絵は描きたい。一番萌えるのは、風呂上りの半裸で牛乳をパックでそのまま飲むっていうシチュエーションが好きです。そんな誰かの後姿に思わず抱きつきたいですね〜。あははは。あえて誰とは言わないけど。うっふ。あはは。
まぁ今回は久しぶりにシオラリでした。微妙な略し方。すっごい久しぶりに描いたわ。もう口調なんてさっぱり分かりません。とりあえず渋沢さんみたいなおとなしいしゃべり方でもなく、だからといって元気少年や生意気少年的しゃべり方ではなく。でも子供っぽさもありながらも、しっかりと大人的なしゃべり方ができるような、そんなイメージです。でもね、なんかそういうのって難しい。へたにきざくさいくせに、へたに子供っぽくて。たとえるなら英士的な策士的部位が存在してますかね?英士と渋沢さんを足して、誰かで割ったような(誰だよ)なんかまぁ、難しい人。私好みにしたいだけだけどね。でも好みも変化しつつあるから難しいのかな〜?まぁでもへたれではないね。へたれなときもあるけど。一馬や監督みたいなへたれさはないな。とくにエロくもないし、英士みたいに黒くはないし。うん、難しい。ラリスは私自身なんで問題ないでしょう(は?)まぁある意味ドリームチックな、そんなキャラなんだな〜と思ったり。うふ。
長いなあとがき。まぁわけわからんちんですが、楽しんでいただければ幸いでした。誰かの視点よりな第3者視点は始めてでした。あは。
そういや冷え性の情報はネットより検索。正しいかはみなさんの判断にまかせます。
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