魔物マスターをめざして!−風と水の妖精の幸せ− またやった…。そう気付くのは、いつも帰ってきて、誰もいない家のドアを開けた時。いつも、俺を出迎えてくれる彼女。居ない方がおかしいくらいで…。だから、居ないとすぐ分かるんだ…。 「むー、俺何かまたやったかー?」 「…ねーそろそろ帰らなくていいの?」 「よっ…と」 「…あ…あすら…」 Fin2002年1月16日&26日 ども…俊宇 光です。魔物マスター第2段。第1段はどうしたって突っ込まないでー(汗)えー突発的に書きたくなった話。小説書きたくて、選んだのがこれでした。この作品は、私がどれだけくさいかを知るには、とてもよいものでした(泣)あすらがくさい。ってか表現がくさすぎるんだ!!救えねー。あすらはこんな奴じゃねー。今回は彼視点と彼女視点という初の試みでした。いかがでしたでしょうか?まぁーまた次回も読んでやってください。では。
俺はあすら。実は…魔物マスター。最年少でなった、と少々有名になっていたりするらしい。
ちなみに19歳。そんな俺は、現在このマスター専用の家に、二人で住んでいる。
「うー」
そう、俺はもう一人の同居人、の姿が見えないから、悩んでいるのだ…。俺は頭を抱えて、その場に座り込む。
「…久しぶりだね、が居なくなるの」
俺の専属精霊で風の精霊のウィンド。まだ俺と会って日が浅いため、Lvは25。まだまだやんちゃな盛りって感じだ。
そうそう。精霊にはLvがある。一番最初は赤ちゃんのようなエアー。一番強いとかなり大人っぽいアクアロウという感じだ。ちなみに長はゼファー。これは風の精霊の場合だが、ほかにも水、火、地がある。マスターの称号を手にすれば、光、闇、木、雷の精霊とも契約可能だ。
ちなみには風の精霊に選ばれし者。かなり強い…。現在は闇の精霊の元長、を専属精霊にしている。もちろん風の精霊も従えてるけど…。まぁーようするに、魔力に長けているってこと。俺は魔法剣士。つっても、魔法を使い始めたのは、とここで暮らすようになってからだから、つい最近だけど。
「あー…やべ…。まじで俺何したんだろう…」
一回顔を上げるが、また俺は頭を抱える。あいつが傷ついたり、苦しくなったり、悩んでたりとかすると、必ず居なくなるんだ。その原因は、全てといっていいほど、俺。まぁー、俺はあいつの気持ちを、利用してるわけだがら…こうなっても、しかたがないのかもしれないけど…。
「何?分かんないの?」
ウィンドが呆れた顔で言ってくる。
「身に覚えがない…」
だから悩んでんのに…。
「はぁー。…とりあえず探しに行けば?どうせあそこなんでしょう?」
そうため息を付いて言ってくる。
「…あー」
俺はそう答えると、家を出て俺の手持ちモンスター、リューイの傍へと向かう。こいつは、ドラゴン種の魔物。俺が初めて仲間になった魔物だ。こいつが子供の時から、俺は一緒にいた。
でもそのせいか、こいつは人見知りが激しくて、いまだににさえも慣れない。
「はぁー」
俺はため息を付いて、リューイが繋いである小屋まで向かう。
この世界では、一番最初に仲間になったやつを、外に出しておかなければならないきまりがある。他のモンスターは、ビンの中に納められるのだが…。
「リューイ」
俺はそう言って、リューイの首を撫でる。
「キュイ…」
リューイは、そう鳴きながら俺にすり寄ってきた。
「…リューイ、またあいつの所まで飛んでくれるか?」
申し訳なさそうな表情で、リューイに言う。
「ギュイ」
すっごく嫌そうな顔。こいつがあんま好きじゃないらしく、毎回嫌な顔すんだよなー。
「そういう顔すんなよ」
俺は苦笑しながら、リューイの上に乗った。今じゃ俺よりでかいリューイ。昔は手のひらサイズだったのに。
「…」
俺は無言で空を見上げる。
…そう、俺はあいつの気持ちを利用してるんだ。あいつと出会ったのは、俺が旅に出てすぐのことだった。いきなりの出会い。いきなりの告白。最初はすっげー変なやつだと思ったけど、一緒にいるのは嫌じゃなかった。魔力も強いから凄い戦力になったし。でもあの時の俺は、女になんて興味なかったから、結局は告白を断ったけど、それでもあいつは、俺と一緒にいたいって言うから、こんな状態。まぁー俺もあいつと一緒に居るのが、当たり前になってたから、マスターになってからも、それは変わらなくて、今もこんな生活。別に特に抵抗もなかった。でも一つ変わったのは、俺とあいつが、周りから見て恋人同士、ということになったぐらい。つっても見かけだけなんだけど。俺は、マスターになってから、FANクラブまでできるほどの人気になってしまった。故に、女が周りに集まる。女に興味のない俺としては、すっごくうざい。だからあいつに恋人のふりを頼んだんだ。…つまり、俺はあいつの気持ちを利用して、現在に至るわけで…。だから、いちお悪いとは思って、生活費などは全部俺が出してるし、それなりに我が儘は聞いてやりたい、とも思う。でも、あんまあいつ、自分のこと言わないから、こうやって居なくなるんだよな…。
「…」
俺は、自嘲的な笑みを浮かべて、前を見る。
「なぁー、ほんとに何したか分かんねーの?」
ウィンドが、ふと俺に話しかけてくる。
「うー、なんか思い当たりすぎて、どれかも分からん」
かなりいろいろい浮かんできたから、いまいちどれが原因か分からない。でも、こんなのは初めてかな?いつもは原因が分かるんだけど…。
「この女泣かせ」
ウィンドがぼそっと言ったのが少し聞こえた…。
「うんだと」
俺はウィンドを睨みつける。
「…ああ。俺、原因なんとなく分かったわ」
そうウィンドが呆れながら言う。
「何!?」
俺は思わず反応してしまう。なんで俺に分かんないのに、おまえに分かるんだよ。
「まぁーたぶんだけど…」
考え込むような顔で、そう言い出すウィンド。
「なんだよ…。なんでおまえに分かんだよ」
なんだか納得いかねー。
「そりゃー、僕は大人だからね」
えっへん!って感じにふんぞり返る。そのまま張っ倒してやろうか…。
「ど・こ・が!おまえはガキだろうが」
そう、外見から見れば、ただのガキにしか見えない。
「なんだと!これでも100年は生きてんだぞ!」
向きになって返してくる。そういうとこがガキだっての。
「何ー!?おまっ、100年も生きてんのか!?」
俺は本気で驚いた。だって外見から想像するには、よくて14歳くらい。もっと下に見ると、12歳くらいにも見える。人は見かけに寄らないとは、よく言ったもんだ…。(人じゃない…。っていうか意味違う気がするぞ、あすら…)
「おう、形(なり)はな。長以外は、人間と一緒にいねーと成長しねーんだよ」
初めて知った…。
「あっそ…。で、何だよ」
話題を反らす。
「は?」
いきなりの話題の切り替えに、ついて来れないらしい。
「だから、あいつが家を出てった原因だよ」
しびれを切らした俺が、そう怒鳴る。
「あー」
やっと分かったらしい。手をぽんっと手で叩く。
「で?」
「本当に分かんね?」
呆れた表情で聞いてくる。
「分かってたら聞かねーよ」
なんだかだんだんいらいらしてきた。
「…たぶんだけど…寂しかったんじゃねーの」
俺から目線を反らして、前を向いて言うウィンド。
「え?」
俺、今間抜けな顔してそう。
「このごろ、あすら朝早く出てって、夜遅く帰ってくるじゃん?」
「あー」
そう、このごろ仕事が忙しくて、そんな生活してた。
「あんまと、離す時間って無かったじゃん?だから、寂しかったんじゃないのかな?」
…なるほど…理解…。
「…しょうがないじゃん」
そうだよ…仕事なんだし、しょうがないじゃん。
「そうなんだよ」
「へ?」
あれ、納得されてしまった…。普通は「しょうがなくないだろう」って返されるんじゃないのか?「しょうがないんだよね。もしかすると、今回のって家出じゃないかもね」
考え込む。その表情はすっごく真剣だった。
「え?」
俺、さっきからこんな答えばっかだ…。
あーそういえば、俺達はあいつが居なくなることを、家出と呼んでいる。一番最初は、かなり焦ったけど、2回目から全く同じ場所にいる所を見ると、探しに来てもらいたいらしい。まぁーこれが、あいつなりの、甘え方なんだろうと思う。だから探しに来てるんだけど…。
「だってさ、帰り遅いって分かってて、待ってるかな?」
不思議そうに聞いてくる。
「…うー、でも家に居ないんだぜ?この時間じゃ買い物ってわけでもないだろう」
だんだん分かんなくなってきた。家出じゃないなら、どうして家に居ないのさ…。
「だよな…。とりあえず行ってみようぜ」
「…あー」
ウィンディが、私にそう聞いてくる。私は。19歳で魔物マスター。
「大丈夫よ…今日もどうせ遅いだろうから、何時に帰ったって」
苦笑してしまう…。そう、ここ最近、あなたに会っていない。同じ家に住んでるのに、会えないのって不思議よね…。
「」
心配そうにウィンディが私を見つめる。
「なんて顔してんの。別に今日は家出でここに来た訳じゃないのよ?」
私はにっこり笑って言う。今日は、家出のつもりでここに来た訳じゃない。そりゃー、迎えに来てきれたら、なんて願ってないって言ったら、嘘になるけど、絶対来てくれないって、分かってるから。このごろ仕事が忙しいみたい…。だから、へたに我が儘も言えないし…。(いつも言わないけど…)
「じゃー、どうしてここに?」
不思議そうな表情を浮かべて、私に問う。ここはいつもの家出場所。確かに、ここに来たら家出、って連想するのがあたりまえかな?
「…ただね…。なんとなく…」
私は、目を瞑って風を感じる。私の長い黒髪が、風に舞う。私が座っている草原を、揺らしていく。風は好き…。何もかもが、流されていくようで…。
「…」
ウィンディは、それ以上は追求してこなかった…。
「なんとなく」…確かにそうだけど、もう一つ理由があるのも事実。ここは、精霊の憩いの場でもある。森の中にある草原。その真ん中にある小さな湖。その場を吹き抜ける風。全て、全てが精霊が作り出す自然の形。ここは、とても心が落ち着く。魔法使いにとって、ここは癒しの場所と言ってもいいだろう。もう一つの理由、それは癒し。ここに来て、あの人…あすらに会えない悲しさと、もやもやした気持ちを、落ち着かせるため。そのためにここに来た。まだ、我慢はできる範囲だけれど、苦しいことに、代わりはないから…。この苦しい思いを選んだのは私。それでも、あなたと同じ時を進めるならば…。例え、それが見せかけの愛の中に、成り立つものだとしても…。「…」
泣きそうになる。考えれば考えるほど、悲しいし、苦しいけれど、それでも、あなたと共に…生きていけるなら…。
「」
シャドウもとうとう、私に声をかけてくる。滅多に昼間に、声なんかかけてこないのに。彼女は鋭いから、泣きそうになったのに、気付かれてしまったかしら…。
「…なぁに?」
私は、悟られぬようにと、笑顔で答える。
「…いや、なんでもない」
そう素っ気なく返してくるシャドウ。
「…ふふ、変なシャドウ」
私は、にっこり笑ってそう言った。彼女は、どういう時にどうすればいいのか、自分で判断ができる人。さすが、元長と言うべきか…。
「ねぇー本当にまだ帰らないの?少し暗くなってきたよ」
ウィンディが口を開く。今の時刻は、17時頃だろうか。日も傾き、夕日が見える。
「…うーん…。少し、あれの練習しようか」
そう言って、私は立ち上がる。
「…あれやるの?」
少し嫌そう表情のウィンディ。
「そっ、あれ。こういう機会でもなきゃ、練習出来ないじゃない?」
私はそう言いながら、湖の前に立つ。
「…あれって、疲れるのよね」
そうぶつぶつ文句を言いながらも、私の近くまで寄ってくる。
「ふふ…。それじゃいくよ」
そう言って、呪文を唱え始めた。
俺は、リューイから飛び降りる。ここは、いつもの家出場所から、5mほど離れた森の中。なんだかいつも、その場所に直に行けない…。俺って、変に小心者なのかな…。
「で、どうすんの?」
ウィンドが俺に訪ねる。
「とりあえず行ってみよう」
そう言って歩き始める。
「…うん…っ!」
俺が歩き始めると同時に、あいつは何かに気付いたように、立ち止まる。
「…どうした?」
付いてこないウィンドを不思議に思い、俺は振り返った。
「…の、力を感じる…。魔法を…使ってるんだ…」
ウィンドは目を瞑って、言い始める。
「…やっぱり、あそこにいるのか…行くぞ」
俺は少し、早歩きで進み始める。魔力を使っているってことは、魔物にでも出会したのか…。この世界の魔物には、剣しか通じないのと、魔法しか通じないという、たまに厄介なのが存在する。だから旅に出る際に、剣士と魔法使いでペアを組まされる。俺は断ったが、結局と一緒にいるから、ペアを組まされたのと変わらない。
「見えた…」
いつもの場所が見えた途端に、俺は一瞬、自分の目を疑った。思わず木の陰に隠れて、その様子に見入ってしまう。
「…あすら?」
不思議そうな顔で、俺の名を呼ぶウィンド。でも、俺には聞こえていない…。俺には、今見えているものしか、見えなくなっていた。
「…あ…、だ」
そう、俺の視線の先に見えるそれは、。湖の上に立ち、夕日に照らされる彼女…。気まぐれに吹き抜ける風が、彼女の髪を靡かせる…。その光景は、まるで、風と水の両方を、司るかのような妖精に…俺には見えたんだ…。
「…」
正直、見とれていたのだろう…。水の上に立つ、妖精に…。目を瞑り、風を感じている彼女。彼女の周りを、風の層が包んでいく。湖に反射した、夕日の光が、彼女をいっそう、儚い者へと誘っていく…。彼女の動き、彼女の周り全てが、「綺麗」という言葉で、構成されている気がした…。
「のぞき見とは、感心しないな」
俺はその言葉で、我に返る。
「…シャ…シャドウ!?」
俺では魔力が少なすぎて、シャドウの姿を自分の目で確認することは出来ない。声がした方向を、向くくらいしか確認できない。俺は、びっくりして、思わず立ち上がってしまう。その際に、近くにあった草を、思いっ切り揺らしてしまった。その音は、彼女を気付かせるには、十分だった…。
ど…どうしてあすらが…ここにいるの?
「…」
「…」
…な…なんだか気まずい雰囲気…。周りにいた精霊達も、びっくりして逃げちゃったし。
「あ…」
あすらが、何か言いたそうな顔をしながら、草むらから出てくる。もしかして、ずっとそこにいたの?…あれ?そういえば、私、今ままで何して…。
「…きゃっ」
思い出した。私水の上にいたんじゃない。私は水に落ちると思って、思いっ切り目を瞑る。
「…セーフ…」
落ちると思ったら、全然水の感じがしない。その変わりに、そんな言葉が耳に入ってきた。私は、そっと目を開けると、彼に支えられていた。岸の近くにいたためか、なんとか助けてくれたみたい…。
「…あ、ごめんなさい…。気を抜いてしまったら、魔力のコントロールが出来なくなってしまって…」
私は、真っ赤な顔で答える。だって…抱きかかえられちゃってるし。
「あ、いや…。それより大丈夫か?」
私を持ち上げたまま。湖から離れる。私、さっきから動揺しまくってる…。今も顔が真っ赤だし…。
「え?…あ…うん。少し、足先濡れただけ」
そう言うと足下を見る。
「…ごめんな。もしかしなくても、俺が邪魔したんだよな」
申し訳なさげに言い出す。
「え?ううん、そんなことないよ。私が勝手に、びっくりしただけだから…。…あの、降ろして欲しいんだけど…」
私は、頭を左右に振って否定した後、言いにくそうに、そんな言葉を口にする。だって、私さっきから直された体勢のままなんだもの。しかもその体勢がお姫様抱っこ…。私、心臓が爆発しそうなんですけど…。
「うー。…やだ」
少し迷った後に、返ってきた答えはそれ。
「な!?ちょっ、あすら」
もう慌てるしかない。顔がさらに赤くなるのが分かる。降ろしてくれないってどうして?お願いだから降ろしてよー。まじで心臓ばくばく。このまま死んでもおかしくなさそうよ。
「だって足先濡れたんだろう?このまま降ろすと、足汚れるぞ?」
そう、いくら下は草むらだと言っても、汚れることには代わりはない…と、あすらは言いたいらしい。だから降ろせない、と言いたいのだろう。別に、そんなの気にしなくていいのに…。
「いいよ、それくらい」
そう、とにかく降ろして欲しいんです。そう心で訴えても、彼に届くはずもないのだが…。心の中が矛盾する。降ろして欲しいと思う、恥ずかしい気持ちと、降ろして欲しくないと思う、嬉しい気持ちとが…。変な感じ。
「よくない…。リューイ!!」
あすらがそう言うと、少し離れたところから、リューイが飛んで現れる。別の場所にいたんだね…。
「…あすらー」
もうされるがまま…。
「ほら」
嫌そうな顔してるリューイに私を乗せ、ウィンドに取ってこさせた、私のブーツを履かせようとしてくれる。
「…あ…、自分で履きます」
私は、慌ててあすらからブーツを受ける取ると、いそいそと履き始めた。
「なんで湖の上に立ってたんだよ…」
さっき疑問に思ったのだろう。そう私に聞いてきた。
「…え?あ…風の、魔法の練習を…」
なんだか恥ずかしくて、俯きながら答えてしまう。だって、久しぶりに会ったから…。こんなに喋ったのなんて、かなり久しぶりじゃない?しかも、お姫様抱っこ…。うー、思い出しただけで顔から火が出そう…。
「風の魔法?」
彼は、間髪入れずに聞いてくる。
「…足の裏に、風の層を使って、水の上で浮く練習。細かい力を、コントロールできるように、練習してたんだけど、結構難しくって」
私は苦笑しながら、彼の顔を見る。やっとまともに見れたかな…。
あ!そうそう、大きい力よりも、細かい力の方が、魔力も体力も精神力も使うから、かなり難しいの…。だからウィンディが疲れるって言ったの。あれっていうのは、この練習のこと。
「…なるほど…。それで」
彼の疑問は、解決出来たみたい。
「ありがとう…。助けてくれて」
さっきのお礼を、口にする。
「あー、いや…」
あすらは、ぱっと目を反らす。少し、顔が赤く見えるのは、私の気のせい?
「どうしたの?」
私は、心配した表情を浮かべて、あすらの顔をのぞき込む。
「なんでもない…。それより、どうしてここで練習してたんだよ」
彼は立ち上がりざまに、そう出す。さっきまで片膝を付いて、私に目の高さに、合わせてくれていたのだ。
「え?…あ…うん。ここはね…精霊の憩いの場だから…」
私は、あすらから視線を離し、周りを見渡す。
「…へー、初めて知った…」
あすらも周りを見始めた…。
「さっきあすらがいきなり現れて、みんなびっくりして逃げちゃったけど、いつもここは、精霊で溢れているわ」
とても落ち着いた笑みを浮かべて、そう話す。
「…なんだか…、俺って邪魔?」
申し訳なさそうな表情をして言う、あすら。
「そんなことないよ。最初に脅かしたのは、シャドウなのでしょ?」
私はくすくす笑って言う。
「…なんでそれを」
彼はびくっとした。
「え?だって出てきたとき、シャドウ!ってびっくりしてたじゃない?」
違った?っと私は聞く。
「…あ…、なるほど」
なんだかほっとした表情…。何か隠してる?
「…ねぇー」
私は話を切り替えようとする。
「え?」
あすらが、私の方を振り返る。
「…今日は、随分早かったんだね、帰ってくるの」
自分から話しかけといて難だけど、なんだか少し寂しくて、俯いてしまう。
「…あー、今日は早く、仕事が終わったんだ」
あすらは、少しずつ私に近付いてくる。
「…そっか…。明日は…」
私は手をぎゅっと握って、そう言葉を口にするが、それ以上言葉が続かない…。
「…明日は遅いだろうけど、来週からは普通に戻るよ」
あすらは、私の頭に手を乗せて、そう言い出す。私が聞きたいことを分かって…くれたの?
「…」
あすらの大きい手…。寂しさが吸い取られるように落ち着いていく…。少し、泣きそうだったけれど、泣くと迷惑だろうから、私は笑顔を浮かべて顔を上げる。
「…」
優しげな表情を浮かべた彼と、目が合った。
「…あ」
「帰るか…」
私が何かを言おうとしたのを、彼の言葉で遮られる。
「…うん」
私は少し、目をしばたかせていたが、すぐに内容を理解して、笑みを浮かべて返事をした。
それから嫌がるリューイに乗って、家へと帰っていく。いつのまにか、居なくなっていた精霊達。私の魔物は猫だから、今頃家でお昼寝中かな?そんなことを考えながら、くすくす笑い出す。「なんだよ…、いきなり」
いきなり笑い出したことに、疑問を感じたのか、そんなことを聞かれた。
「ううん…。なんでもないよ」
にっこり笑って答える。今の…この時間が凄く幸せ。
「…変なやつ…」
不思議そうな顔して、前をむき直す。
「ふふ…」
ねぇーあすら、私を心配して、ここに来てくれたの?私を探しに、ここに来てくれたの?…聞きたいことは、いっぱいあるけれど、怖くて聞けない…なんて臆病者かな…。…でもね、本当に嬉しかったのよ…来てくれたこと…。
「…?」
私は、捕まっている手に、力を込める。離したくない…。この時が…何時までも続けばいいのに…。こう願うのは、私の我が儘かな…。自然に自嘲的な笑みを浮かべてしまう。私は俯いているから、彼には見えないだろうけれど…。
「…」
沈黙の時…。聞こえるのは風の声。見えるのは夕日の沈んだ、少し暗い空。
「…腹減った…」
沈黙を破ったのは、あすらのそんな言葉だった…。
「へ?」
私はすっとんきょんな声で、反応してしまう。
「…久しぶりに、何か作ってくれる?」
私の方を振り返りながら、そう言うあすら。
「…いいの?」
いつもは、大変だろうからって、作らせてくれないのに…。今日は頼まれてしまった…。なんだかびっくり。
「…あー」
「…うん、分かった。何食べたい?」
嬉しくて仕方がない。顔が自然に綻んでくる。私の料理を、食べてくれるだけでも嬉しいのに、頼まれちゃったんだもの…。初めてだから、本当に嬉しい。
「なんでもいいよ」
ふと微笑して答えられる。その顔に思わず見惚れてしまう…。ずるいよね…もう。
「えー、それが一番困るー」
「べつにこれといって、食いたいもんも…。まぁー腹減ったんだよ…」
「何それー」
そんな会話をしながら、家まで帰って行った。
これが、私の幸せな時間…。あなたと共に過ごせる…大好きな時間…。このまま…続いて欲しい…。
あとがき