魔物マスターをめざして! −存在の大きさ− 2001年6月10日 彼の存在…。彼、あすらの存在は…私にとって、とても欠かすことのできないもの…。 「あすら…何処か行くの?」 ”見せかけの彼女”それは、彼の周りから女を遠ざけるための物…。 彼の存在…。私にとって、この出来事は、彼の存在を、さらに大きくさせるものとなってしまった…。今、彼を失えば…私は…。
ここの家の主であるあすらが、大きな荷物をかかえて部屋から出てきた。
「あー、少しばかり留守にする…」
そう簡単に私に言う。何故か少し傷ついた顔になる…。
彼がこんな荷物を持って出かけるのは、今回が初めてだ。少し気になる…。
「…何処に行くの?」
心配そうな表情をうかべながらも、聞きずらそうにあすらに問う。
「…まぁー…いろいろ」
少し間をあけ、曖昧な答えを返してくる。
「…そう…」
私は、それ以上聞くのをやめた…。
「じゃ…」
彼が荷物を持ち上げて家を出ていこうとする…。
「あ…い…何時帰ってくるの…?」
とっさに、呼び止めるかのように聞いてみる…。
「…」
彼は黙って私の方へと振り返る。
私には、うざいって思っているような顔に見えてしまって、おもわず…
「あ…ごめんなさい…。私には関係ないわよね…」
謝って、下を向いてしまう…。
そう、私には関係のないこと…。彼の行動をいちいち把握する必要性はない…。束縛してしまうことは、私にはできないから…。
だって、私は”見せかけの彼女”なんだから…。
彼は女というものをあまり好まない…。へたをすれば私のことも…。
彼と出会ったのは2年近く前…。私が、魔法の効かない魔物に襲われたときに、助けてくれたのが彼だったのだ。
私はそれから彼を好きになり、告白したところ、「女に興味はない…」とあしらわれ、終わる。だが、どうしても一緒にいたくて、「それでもいい」と言って今は一緒にいる…。
彼はそれから順調に力を伸ばし、今では最年少の魔物マスターを名乗るほどにまで成長した。それからは、今いるこの場所に腰をおちすかせたのだ。
今もなお、彼と一緒にいられるのは、魔法使いが挑戦しに来たときに、対応できるようにするため。前のマスターは魔法剣士だったから、一人で住んでいたらしい。あすらは剣士だから…。だから私が魔法使いの代わり。そして、女よけのための道具。
彼は、ただでさえ最年少のマスターとして有名なのに、顔がめちゃめちゃかっこいい。これさえ揃えば、そこら中の…いや、世界中の女がほっとかない…。
最初は、彼女がいる、なんてことは誰にも知られていなかったから、そこら中から女の人が集まってきていた…。でも、女に興味のない彼としては、それがすごくうざいらしく、手頃にいた私を、彼女としてダミーを置いた。今は誰も、彼に近づこうとはしなくなった…。
幸いだったのが、私がまだ可愛い方の部類に入る、という点だった。(自分で言うのも難だけど…)もしこれでぶさいくなら、周りが認めなかっただろうし。今だ諦めない人もいるけど、大半の人はこれで諦めている。
”見せかけの彼女”である私に、彼を束縛する権利はない…。だからそれ以上の追求は、彼を不快にすると思い、そこで話題を中断させようとした…。
いつもそう…。彼に嫌われるんじゃないかって怯えて、何もできないでいる…。こんなにも私は、彼を愛しているけれど、彼は私を見てくれようとはしない…。ただの道具としてしか私を扱ってくれない…。それでも…彼と一緒にいられるのなら…。そんな思いを胸に秘め、顔を上げて笑って見せる…。でもどうしても少し、泣きそうな、悲しそうな…そんな表情になってしまっているような…そんな気がした…。
「…」
すると彼は、その場に荷物を置き、私の方へと近づいて来た。
「…あすら?」
不思議に思い、近づいてくる彼と目をあわす。すると…
「え!?…ちょっ…う…」
私はびくっとして、肩に力を入れる…。その肩に、彼はキスをする…。
「…」
すると、彼は無言で顔をあげた。キスをされた肩には、少し青いような赤いような、痣のみたいなものが、くっきりと残っていた…。
「あ…あすら…」
私は真っ赤な顔をしながら、彼の名前を呼ぶ。
「これが消える頃に、戻ってくる…」
そう、私の耳元で囁やくと、額にキスをして、そのまま荷物を持って出ていってしまった。
「あ…」
思わず、呼び止めてしまおうかと思ったが、少し恥ずかしくて、キスをされた肩を押さえながら下を向く。こんなことは初めてである…。あまりの行動に、何がなんだか分からなくて、ただただ赤面してしまう…。
「あすら…」
そう、彼の名前をぽつりと呟いた…。