魔法使いが人間になれた日まえがき
 

第四章  本音

 あれから、半年という月日が流れている…。
半年の間に、バズラが戻ってきた回数は2回。もちろん、その2回とも、「いってきます」「いってらっしゃい」「ただいま」「おかえりなさい」この言葉をしっかりと交わしている。ちゃんと、約束は守っている。バズラはそういう人だ。律儀で、心配性で…。律儀のくせして約束破ってる、って思うかもしれない
が、心配性のバズラが、メサイアを旅へ連れて行くわけがない。ここに置いて行くのも、最初はためらっていたようだが、リウス達がいる、っということで、少し安心しているらしい。

 「う…あーーーー」
背伸びをするバズラ。
「今日もいい天気だ。あそこへ行ってみるかな…」
そう言いながら空を見上げた。
「よっし」
そう気合いを入れて、山道を登る。ここは、リウス達の村から遠く離れた山岳地帯。見渡す限りの山、山、山。どこを見ても山ばかり。さすがに全部を越すには、体力が底を尽きる。が、しかし、こんな所だからこそ、誰も足を踏み入れない。ということは、見つけられていない場所が、あるということだ。でも、その分魔物も多いのだが…。
 ここ数日で、10匹以上の魔物に襲われている。さすがに、怪我を負わないわけにはいかない。いつもは多くても、大抵5匹だ。だから、怪我もかなり少ない。
 ここ数年で、バズラは異様なまでに成長している、っというのも、怪我の少ない理由の一つだ。
「おっと…」
草で足を滑らせるが、なんとか体制を立て直す。そんな状況のまま、ある一つの物を見つける。その体制でなければ見えない位置にある。
「ん?」
その体制をなんとか維持し、そこをじっくり細目で見る。
「あれは…」
そう呟いて、なんとか立ち上がった。
「いて…」
変な体制のまま止まっていたため、どっかつったらしい…。
「あう…」
なんとかその痛いのを我慢して、さっき見た所へと降りて行った。

 「…すっげー」
そこは、草で半分以上囲まれていたが、まぎれもなく、人為的に作られた、と思われる石でできた門があった。
「ふあー結構古そうなのに、ほとんど壊れてねーじゃん」
めっちゃ感激する。バズラは、トレージャーハンターとしての素質はある方だ。現に父親は、とても凄いトレージャーハンターだった。いくつもの、有名な遺跡などを発掘している。本に載っている有名な遺跡の大半は、バズラの父親が発見したものだと、いっても過言ではない。それだけ凄い人だったのだ。
 だが、そんな父親も、遺跡の発掘中、落盤事故に遇い、5年前に死を遂げている。
 ま、そんな父親の血を受け継いでいるためか、かなり凄腕のトレージャーハンターとして、バズラも有名である。バズラはトレージャーハンターの中でも最年少だが、かなり遺跡を発掘している。
 そんなバズラが凄いと言うのだ。かなり凄いのだろう…。
「誰にも荒らされた所はなし。門を見る限りでも、かなり古いぞーこれ…」
 この世界には、古い神話がある。昔、今の人類が生まれる前に、別の人類がこの星に住んでいたと言われている。しかしその人類は、神の怒りに触れ、絶滅してしまったのだ。が、彼等達が作った建造物が、とても素晴らしかったので、世界は破壊せず、それだけは残したと伝えられている。だから、この世界のどこかしこにある遺跡は、その残された建造物ではないか…という説もあるぐらいだ。
「よっしゃー、行ってみっか!」
さっきの痛みは納まったらしい…。
 懐中電灯を照らしながら、どんどん奥へと進んで行く。
 そんな時、石がぱらぱらと転がる音がした。
「誰だ!!」
今のは、自然に落ちたものとは考えにくい。おもわず叫んでしまう。
「てめーこそ誰だよ!」
明かりが照らす方から、別の光が出てくる。それと一緒に、小柄な体の、人らしき物が姿を表わす。どうやら、声からして女のようだ。
「女?」
先に口を開いたのはバズラだった。
「なんだよてめー」
向こうはこちらを威嚇してきた。ぎろりと睨み付けている。
「俺はトレージャーハンターだが、その確固からすると、お前もトレージャーハンターだな」
相手が本当に人間であることを確認したと同時に、服装から判断する。
 彼女は、色黒で、あちらこちらに包帯を巻いている。顔には数カ所絆創膏が貼られていた。髪の毛は黄土色で、肩より少し長い髪を、後ろに一本にして束ねていた。
「そんなようなもんだが…あーーーーーー!おまえ、ここを発掘しに来たのか?なら遅いぞ。ここは俺が先に見つけたんだからな!」
いきなり叫び始める。
「うっせーな。うんなでかい声で言わなくても、聞こえるわ!!」
ここは洞窟。そんなでかい声で叫ばれては、響いてうるさい。
「むー」
少し黙る。
「ちぇー、お手付きかよ。つまんねーの。いいとこだと思ったのになー」
本当につまんなそーうに言うバズラ。かなり悔しかったらしい。
「…ここ、交渉次第に寄っては、明け渡してやってもいいぞ…」
あんまりにも悔しそうな顔をしているので、少し見兼ねて話を出してきたのだろうか…。
「な!?まじか?」
すっごく嬉しそうに反応する。
「おう」
なんだか、本当に女かって感じだ。おもわず、メサイアと比べてしまうバズラ。
「なんだ、なにが望みだ?」
真剣な顔で聞くバズラ。
「…頼む、食料くれ…」
そのままそこに座り込んでしまう。
「はぁー」
おもわず脱力してしまう。何を言い出すかと思えば、食料よこせだ…。そりゃー脱力もするだろう。
「1週間くらいから、この山に迷い込んで、3日前にここを見つけたんだが、2日前に食料が尽きた…」
へにゃへにゃとその場に倒れ込む。
「なっ…2日前からなんにも食べてないのか!?」
おもわず同情して視線を落とす。
「うん…」
もうそれ以上喋る気は無さそうだ。
「分かったよ…」
見るに見兼ねて、OKを出すバズラだった。

 「うまい。うまいなー。おまえ男のくせに料理上手いなー」
がつがつと食べる。っていうか、料理が上手くなきゃ、トレージャーハンターなんてやってられない…。
「はぁー…」
もう、脱力の繰り返しだ。ため息が出てしまう。
「そういや、おまえ名前なんての?」
いきなり話しかけてくる。
「自分から名乗れよ」
しけた面して言うバズラ。(あーいい感じの発音)
「おう。俺はセリエ」
「俺って…」
どうも、気になるらしい。
「まぁー気にすんな」
そしてまた食べ始める。
「ったくー。俺はバズラだ…」
とりあえず名を名乗る。
「ふーん。変な名前」
「余計なお世話じゃ!」
いちいちむかつく奴だと頭の中で反すうした。
「まぁーこれからよろしく!」
そう軽率な挨拶を交わす。
「はぁー」
すっげー嫌そうな顔をして反応する。
「ん?だってよ、俺ここから1人じゃ帰れねーもん」
「じゃーどうやって、ここまでたどり着いたんだよ。魔物がいっぱいいただろうに」
疑問そうな顔で聞く。
「あーそれは平気。戦闘には慣れてるから」
そうあっさり言い返すと、また食べ始める。おまけにお代わりまでし始めた。
「あっそ…」
やっと分かった。こいつは方向音痴だ…。そんなんで、よくトレージャーハンターなんかやってられるよなーっと、心の中で思う、バズラだった…。

 それから数週間、その遺跡の調査を2人係で終わらせ、遺跡を後にしようとした時のことだった…。
「それを売りに行ったら、どこへ行くんだ?また別の所に、遺跡探しに行くのか?」
帰り道を歩きながら聞くセリエ。
「いんや。一度家に帰ろうかなーなんて思ってるけど…」
すたすた歩きながら答える。
「ふーん…俺も一緒に行く!」
ふとそんなことを口走る。
「はー!?なんで…?」
意外そうな顔をして振り返るバズラ。
「いやー、おまえの家、見てみたいなーって思って」
にかーっと笑って言う。なんか企んでそうだ…。
「…勝手にしろ…。そのかわり、自分の食費ぐらい出せよ」
「はい。大丈夫です」
畏まって言う。じつは、こいつただ飯食い。あとで金返せって感じだ。
「ったく…」

 いきなりですが、戦闘です。
「ちぇーついてねー。いきなり3体かい」
じりじりと間合いを詰めていく。2人は背中合わせになり、四方八方を見渡す。
「たった3体じゃん。こんなの余裕だよ」
かなり余裕の表情で言う。よほど自信があるようだ。
「ならあとは任せた」
「えー、なんで」
ぶーたれる。
「ただ飯食い!これぐらい働けー」
余裕の表情を見てか、自分で戦うのもめんどくさくなり、セリエに任せてしまう。
「ちぇー、分かりましたよ」
嫌々ながらも納得して、武器を構える。セリエは剣を使う。かなりの上等な真剣だ。いったいどこから手に入れてきたのか。目を疑うバズラ。
「ウガウーーーーー」
いきなり敵が3体一緒に襲ってきた。が、バズラは助太刀する様子もなく、その場をすっと避ける。じつは、3体そのままぶつかればいいと思っていた。が、セリエは避けず、剣を持ち、目にも止まらぬ速さで剣を動かす。
「グ…」
カチンっと剣を鞘に収めた音と共に、魔物がうめき声を上げる。
「グゲーーーーー」
そして、また一体、また一体と、順々に倒れていった。普通の人なら、こうはいかないだろう。
「おまえ、何者だ…」
ここで初めて、セリエの戦いぶりを目にする。バズラは、少々戸惑った。普通のトレージャーハンターではない。それは今の戦いから見て取れる。
「俺?しがない修行中の剣士っす!」
にかっと笑って剣を背中へと肩から掛ける。
「トレージャーハンターじゃないのか?」
セリエの正体を改めて認識する。
「トレージャーハンターは副業。何分金がないんでね」
情けない笑みを浮かべながら言った。
「なるほどね…」
なんだかやっと納得した。ずっと気にはなってはいたのだが、聞く必要もないだろうと思っていたのだ。
「さ!行こうぜ」
そう言って、先陣を切って歩いて行く。
「おい。おまえが先に行くな。迷子になるだろう…」
バズラは慌てて、先へ行くセリエを引き止めた。

 そして、なんとか1ヶ月かけて、バロックスまで戻ってきた。
「ここ?」
意外そうな顔をするセリエ。
「あー」
「しっけた村ねー。こんな所に住んでるの?」
まわりをいぶかしげに見渡す。
「うるさいなー。静かで落ち着くんだよ!」
いちいちむかつく奴だと再確認させる…。
「ふーん」
つまんなそうな反応。しばらく歩き、自分の家の前に立つ。
「入んないの?」
後ろから覗き込んでくる。
「入るよ…」
「?」
不思議そうな顔をしてバズラを見る。
「すーー」
息を思いっきり吸って、扉を開けた。
「あ!おかえりなさい。バズラさん」
にこっと笑ってメサイアが迎えてくれた。
「ただいま…」
変に緊張してしまうバズラ。なんか、セリエを見た後にメサイアを見ると、心が洗われるような感情に苛まれる。(失礼な…)
「えー?一人暮らしじゃないの?」
その会話を、バズラの後ろから聞いていたセリエが、慌てて顔を出す。そこにはすっごく綺麗な女の人が立っているではないか…。
「あ…」
思わず言葉を無くしてしまう。
「あら?お客さま?いらっしゃい」
にこっと微笑む。あー点描が飛んでいる。それとも花かしら…。
「旅先で出会ってさー、着いてくる、って言い張るもんだからさ…」
すっごく迷惑そうな顔で言うバズラ。
「うふふ。どうぞ、狭いですけど、ゆっくりしていってくださいね」
優しく話しかけるメサイア。
「あ!はい。あの…私、セリエっていいます」
いきなり自己紹介をしだす。でも言葉がぎくしゃく。おまけに私、だなんて。隣でバズラが気持ち悪がっていた。
「あ!私、メサイアっていいます」
にこっと笑う。どうやら、セリエにはその笑顔は眩しいようだ。そんなことをしている間に、バズラは自分の部屋に荷物を置き、メサイアは台所へと、お茶を用意をしに行ってしまった。
 なんだか、セリエだけ1人取り残される。
「…」
なんだか黙り込んでしまう。
「何ぼけー、っとしてんだ?」
「うわおう!?」
バズラの声で我を取り戻す。
「なんだよ…」
「ねー、メサイアさんって彼女?」
いきなり話を変える。なんだかからかっているようだ。
「だったらどうする?」
にたーっと笑って言う。反対にからかわれってしまった。
「な!?べつにどうもしないわよ」
少し赤面する。まさか、こうやって返されるとは思わなかったからだ。おもわず目線を反らしてしまった。
「おまえ、俺に惚れたな」
「な!?馬鹿言ってんじゃないわよ!!」
がたーんと立ち上がる。もう顔は真っ赤。
「はい、お茶です」
ぱっと台所から出てくる。
「…」(バズラ)
「…」(セリエ)
2人が一斉にメサイアの方を見た。
「え?どうかしました?」
不思議そうな顔で言い返す。
「いんや、べつに」
少し笑いながら言うバズラ。セリエは真っ赤な顔をしながら椅子に座った。
「?」

 「ったくー。あんたには、メサイアさんは勿体無いよー」
お茶も飲み終わって、メサイアが台所で片づけをしている時、セリエは小声でバズラに話しかけた。
「けー、余計なお世話だ」
椅子の背もたれに偉そうにもたれる。
「本当にこんな奴のどこがいいんだか。彼女が可哀想…。こんな放浪野郎に毎回毎回置いてけぼり食わされて。本当に可哀想だわー」
めっちゃ同情って感じでこぶしが入りそう。
「うるさいなー」
「まったく。あんたも、もう少し彼女の事考えてあげなさいよ!このままじゃ本当に可哀想で、可哀想で」
よよよって感じの言い方。誰だおまえは…。
「…」
特に何かを言い返す気配はない。
「もう。彼女って、自分のこと言わないタイプだから、悲しみとか淋しさとか胸の奥に閉まってそうよね。かなりストレス溜ってるんじゃない?」
本当に可哀想で…っとわざわざ聞こえる声で言ってくる。
「おまえには関係ないだろう」
なんだか言いたい放題言われて、むかついてきたらしい。
「まったく。私行くね。ちゃんと彼女の事考えてあげるのよ」
そう言い残すと、荷物を手に取って家を出て行った。
「あ!おい!…まったく…勝手な奴だったなー」(嵐のような奴だ)
バズラは、別に追うわけでもなく、引き止めるでもなく椅子に座っていた。
「あれ?セリエさんは?」
そんなことをしている間に、メサイアが台所から出てきた。
「なんか、帰った」
そのまんまの説明をする。
「はぁー…?もっとゆっくりしてゆけば良かったのに…」
残念そうな顔をする。
「いいんだよ、あんな奴」
そう言いながら、首を左右に動かす。凝っているのだろうか…。
「いいんですか?本当に…」
「いいの」
向きになって言い返す。
「うふふ」
微笑するメサイア。
「…」
バズラはなんだか赤面してしまった。

 「あーあ。あんな可愛い彼女がいるんじゃ、適わないなー」
そんな言葉を口走りながら、来た道を戻る。
「ちぇーいいと思ったんだけどなー。まさか、彼女がいるなんて…」
はぁーっと思いっきりため息をする。きっと彼女はどこかしこで、また迷っているのだろう…。

 そして、その日の夜…。ぼけーっと窓の外の月を見上げている、メサイアの姿を見つける。
「…何してんだ?」
話しかけてみる。
「あ!バズラさん。いえ、ただ、少し考え事を…」
「…」
その言葉で、セリエに言われた、「彼女って、自分のこと言わないタイプだから、悲しみとか淋しさとか胸の奥に閉まってそうよね。かなりストレス溜ってんじゃない?」っという言葉を思い出してしまった。
「…な…なんか悩みとかあったら、話してよ。帰ってきた時くらい、相談の相手くらいにはなるぜ」
その言葉を気にしてか、いつも言わないようなことを口走る。
「…」
それのせいか、ちょっとびっくりした表情で、バズラを見るメサイア。
「…」
ただ黙って見つめるバズラ。
「大丈夫です。気にしないでください…。悩み事、ってほどでもありませんから…」
にこっと笑って返す。その笑顔は、月の光を浴びて、きらきらと輝いて見えた。それのせいなのか、少し淋しそうにも見えたのは、気のせいなのだろうか…っと心の中で、バズラは感じていた。
「ほ…本当にないのか?悩み事…。悩み事じゃなくても、心配事とか…」
どうしても、話の話題を見つけたいらしい。
 じつはこの2人、あまり話す話題がない。バズラが帰ってきても、あまり話すことがなく月日が流れていく。話しても、バズラの旅の話になってしまう。あまりメサイアの話は聞いたことがない…。
「大丈夫です…」
「本当に?」
しつこい…。でもメサイアが無理していることが分かるので、根気よく聞いているのだ。
「…あの…」
見兼ねてか、口を開く。
「なに?」
喜んだ表情で聞く。
「セリエさんって、とても強そうな感じの方でしたね」
「…なんでそこで、セリエの名前が出てくんのさー?」
不思議そうな顔をして言うが、その言葉を言った途端、ある一つのことを思い付く。
「ははーん。おまえ妬きもち焼いてんの?」
からかい半分で言ってみる。
「そ!?そんな…私はただ…」
顔が真っ赤になる。純粋というか、なんというか…。
「ただ?」
「…」
その質問には、答えられなくなってしまった。
「…ふぅー」
これ以上、この話題に触れているのは可哀想だろうと思い、別の話題を頭の中で探す。
「…もし…さ…」
ふと、口を開くバズラ。
「え?」
ぱっと顔を上げて反応する。
「もし、俺に別に好きなやつができたとしたら、どうする?」
真面目な顔をして聞いてしまう。きっと、メサイアの気持ちを再確認したいのだろう…。
「え!?それは…」
言葉に詰ってしまう。そりゃー、そう簡単に言い出せはしないだろうが…。
「…」
バズラはそれ以上は何も言わない。ただメサイアの答えを待っていた。
「…特に、どうしもしませんけど…」
「え?」
その言葉は、バズラの考えていたものとは、おおいに異なったものになってしまった…。
「そうなってしまったら、しかたがないことです。私では、あなたを幸せにすることができなかった、ただそれだけの事でしょう…」
バズラの顔は見ず、ただ下を向いて喋る。
「それって、諦めるってことか?」
「…はい、そうなりますかね」
「おまえはそれでいいのかよ!」
思わず立ち上がってしまう。
「私は、あなたが幸せであれば、それで構いません…」
やっと顔を上げて言う。その顔は、淋しそうな顔なのに、なぜか口元には笑みが浮かんでいた。
「なんで…なんでそんなことが言えんだよ…」
今度はバズラが下を向いてしまった。
「え?」
「それじゃー、なんかどうでもいいみたいじゃんか」
「そんなこと…!」
言い切るが、それ以上の言葉は出てこない。
「おまえ、本当は俺の事なんか、どうでもいいんじゃねーの」
皮肉っぽく笑ってみせる。
「違う!!」
首を一生懸命に横に振って、否定した。
「おまえの気持ちって、そんなもんだったんだな…」
なんだか、もう自分が何を言っているのかも分からなくなるくらい、頭がぐちゃぐちゃになってしまうバズラ。『頭では分かってるんだ。俺の事を考えてるんだってでも…』そんな言葉が脳裏を掠める。
「なっ!?」
その言葉に反応した。なんだかその言葉は、メサイアをとても悲しめた。
「…」
バズラはそれ以上何も言う気はなさそうだ…。メサイアから視線を反らした。
「あなたに…あなたに何が分かるっていうのよ。毎回毎回、私が置いてかれるたびに、どれだけ不安になってるかなんて知らないくせに!勝手な事言わないで!!」
言い終わると同時に、沈黙してしまう。
「あ…ごめんなさい」
いきなり我に帰り、口に手を押さえて謝る。どんどん顔が赤くなっていくのが分かる。半分泣いてしまいそうになった。
「メサイア…」
どうやら、今の言葉はかなり堪えたらしい。
「…ごめんなさい!!」
そう言うと、慌てて外へと飛び出していった。
「メサイア!!」
慌てて追おうとするが、ぴたっと足が止まってしまう。さっき言われたこと、自分が言ったことを思い出し、なんだか追いかけずらくなってしまったのだ。だが、そんな感情はすぐに取り払い、慌てて家の外へと飛び出して行った。