Twinkle外伝より 去年のお祭り 今年のお祭り 来年のお祭り

 

Twinkle外伝より  去年のお祭り 今年のお祭り 来年のお祭り 2001年7月29日

 去年のお祭りは、結構おもしろかったと思う。知り合いにもいっぱい会えたし…。でももう、去年のお祭りは二度と味わえない。だって、去年は去年だもの…。今年は、いったいどんなお祭りになるのだろう。そして…来年は…。

 夏休みが始まったばかりだと思っていたら、もう7月も終わりを迎えようとしていた…。
 なのにここ最近、気候は何故かとても涼しく、夏が終わってしまったんではないかと、カレンダーを見ながら思ってしまう。
 つい1週間前まで、冷房なしじゃとても生きていけなかったのに。今じゃ扇風機も、動かす回数を減らしてしまった。
 まぁー、台風の影響だったらしいのだが…。反れてしまった今では、きっと明日は暑いなー…なんて思ってしまう、今日この頃。

 じつは、今日はお祭りだったりする。毎年、7月の最後くらいになると、近くの公園で行われる行事だ。
 毎年のように行っていたのに、今年はなんだか自覚がなかった。繭ちゃんに、今日はいつもの公園でお祭りだそうですよ、って言われるまで忘れていた。私はあーっと思い出して、少し驚いた。なんだか変な感じ。いつも楽しみにしてたのに…。まぁー今年は忙しかったからなー、なんてしみじみ思い出したりもしていた…。

「ねー、シオンも行くでしょう?」
この家の主の姉である、ラリス・リンクスこと、この私が、彼氏?のシオン・ルーファスに話しかける。彼はちょうど、私の家に遊びに来ていたのだ。
「え?あー、そのつもりだけど…」
コーヒーの入ったカップを、口に持っていきながら答える。
「クアルも行くよねー、繭ちゃんと」
この家の主であり、私の弟のクアル・リンクスに、脅迫めいた言い方で言う。ちょっと、繭ちゃんと、って所を強調して。
「な!?ラリスさん!!」
真っ赤な顔して、クアルの彼女の上小園 繭(かみこぞの まゆ)ちゃんが、私に言う。
 彼女はじき、私の義理の妹になるかもしれない人。今は一緒に暮らしている。
「あー?…俺行かねーよ」
超めんどくさそうに答えるクアル。
「はぁー?なんでよ!」
ちょっと怒ったように言葉を返す。
「だって俺、仕事だもん」
マジ顔で、真っ正面にいる私を見る。
「嘘付け」
私もマジ顔になって即答する。
「嘘じゃねーよ。うんじゃ行ってくる」
そう言って、コーヒーカップをテーブルに置き、繭ちゃんにそう言った。
「いってらしゃい」
繭ちゃんはにっこり笑って、クアルを送り出した。
「まじ…?」
なんだか拍子抜け。つまんないの…。
「ねーねー、お姉ちゃん達!!どう?似合うでしょう?」
そう私の妹、空(くう)と千紗都(ちさと)が、繭ちゃんに着せてもらった浴衣を、嬉しそうに回って見せながら言った。みごとにはもっている。
「私達も行ってくるね!」
 今は5時。もうお祭りは始まっている。友達と待ち合わせでもしてるのか。すごく嬉しそうに家を出ていった。
「いってらしゃい」
繭ちゃんは、優しそうな笑顔で妹たちを送る。妹たちが出ていくのを確認すると、振り返って、
「ラリスさん達は、行かないんですか?」
と訪ねてきた。
「まだ早いっしょ…。繭ちゃんは行かないの?」
まだ5時だもん。早すぎだよ。
「えー。一人で行ってもしかたないですし…」
苦笑して、答える繭ちゃん。少しさみしそうに見えたのは、気のせいなのだろうか?
「えーじゃー、一緒に行こうよー」
だだをこねるような言い方をする。(おまえはいくつだ…)
「ふふ、お邪魔しちゃいけませんし…」
くすっと笑って言う。
「そんな…お邪魔なんて…」
少し赤面しながら答える私。
「それに、人の多い所は、何かと苦手なものですから…」
苦笑して言う。まぁー、あまり人の多い所を好まないのは事実。私も知っている。
「そっか…。じゃー仕方ないよねー」
少し残念そうに言う。
「すみません…」
苦笑して謝る繭ちゃん。なんだかな…。

 「ねー、本当に良かったのかなー。…繭ちゃん留守番させといて…」
公園への道を歩きながら、シオンに話しかける。
「いいんじゃねーの。行きたくないってのを、無理矢理連れてくるわけにもいかんだろ」
腕を頭の後ろで組みながら、素っ気なく答えてくるシオン。
「そうだけどさー…」
なんだか気になってしまう。

 公園は、いつもの子供の遊び場の影さえも、残してはいなかった。真ん中には櫓(やぐら)が建ち、盆踊りの歌がそこかしこから流れてくる。公園のはしを、屋台が並び、それと平行して提灯(ちょうちん)が並ぶ。そして何よりこの人の数。いかにもお祭りって感じを醸し出している。
 ここに来て私は、あー本当にお祭りなんだなーっと実感してしまった。今でもなんだか、お祭りって感じがしなかった。いつもみたく、楽しみに待っていなかったからだろうか…。

 「すごい人だね…」
少し驚きながら、シオンに話しかける。
「あー…」
辺りを見渡しながら、返してくるシオン。
「少し回ってみようか…」
私がにっこり笑って、行く方向を示しながら言う。
「ああ。はぐれるなよ…」
この人混みでは、はぐれてしまいそうだものね。でも、
「子供じゃないんだから…」
素直じゃないから、そんな風に答えてしまう…。本当は手でも繋げばいいことなのに。でも手は繋がない。だっていなくなったとき、探して欲しいから。なんて…。

 それから、2人で2周くらいした。そこで、お祭り定番のかき氷やら、綿飴やらを買い、食べていた。シオンは、早速お酒に手を出していたけど…。何故かは分からないけど、あるお店でカクテルを売っていたもんだから、初っぱなからそれに手を出していた。私はその風景に思わず笑みを零してしまう。だって、いつもと変わらないのだもの…。
「何笑ってんだよ…」
「べつにー」
素知らぬ言い方。
「…」
いぶかしげな顔をしていたが、それ以上は追求してこなかった。

 もう一周する頃に、空と千紗都に出会った。
 狭い公園だから、すぐに見つかると思っていたんだけど、そうでもなかった。
 彼女たちは、友達と立ち話をしていた。
「あーラリスねーちゃん!!それにシオン兄ちゃんも」
空が私達を見つけて、嬉しそうに駆け寄ってきた。
「姉様、繭姉様はご一緒ではないんですか?」
私達を見るなり、千紗都が不思議そうに訪ねてくる。
「うん。連れてこようとは、思ったんだけどね…」
それだけ言うと、千紗都は分かったような顔をした。
「そうですか…」
「なーんだ」
残念そうな顔を浮かべる2人。
「じゃーね」
そう言って私は、その場を離れた。すると、
「ちょっと空!千紗都!あのレベルの高い人達誰!?」
私達が去った後、空と千紗都に食ってかかる。
「え…?レベルが高いって…ねーちゃん達のこと?」
びっくりしながら答える空。
「えーあれ、あんた達の兄弟なの?」
聞いた本人達がびっくりしている。どうやら、シオンも兄なのかと聞いているらしい。
「片方の女の方が、私達のお姉様で、もう片方の男の方が、お姉様の彼氏ですわ」
丁寧に説明する千紗都。
「はー。とても姉妹とは思えないわ…。誰かさんと違ってお姉様は綺麗ねー」
シオンが兄じゃないと知ると、兄弟と言った言葉を、姉妹へと変えた。そして、からかい口調で空を見ながら言う。
「それどういう意味よ…」
怒り出す空。
「そのまんまよ」
そう、一人の友達とケンカを始める空。
「それにしても、あんたのお姉さんはすっごい彼氏をお持ちだね。めっちゃレベル高くない?」
ケンカしてる2人をよそに、別の友達が千紗都に話しかける。
「そうですわね。でも、お似合いだと思いませんか?」
にっこり笑って言う千紗都。
「はは、そうだね」
その友達もつられて、にっこり笑って答えた。

 「あーあれ、シア先輩だ!あ!?しかも蒼夜!?すごい組み合わせ…」
私は部活の先輩のシア・ライルさんを見つけた。呼ぼうと思ったら、うちのバカ弟の友達の、神無月 蒼夜(かんなづき そうや)が一緒にいるのを見つけて、びっくりした。
「本当に、すごいというか、意外な組み合わせだな」
シオンも意外そうに見る。本当に意外。
「せんぱーい!!」
私は先輩へと駆け寄る。
「あらラリス!久しぶりね。一週間ぶりかしら?」
そう、部活以来会っていない。もう部活があってから一週間もたったのか…。
「お久しぶりです。もう一週間ですね…。あ!蒼夜もやっほー」
先輩に返事をして、嫌そうな顔でこっちを見る蒼夜に、話しかける。
「やっほー…」
私のテンションにつられたかのように返す。
「2人ともお元気でしたか?」
「まぁーね」
蒼夜は素っ気なく答える。
「えー。ラリスの方も元気そうね」
にっこり笑って言う。
「はい」
私もにっこり笑って答えた。
「あら、シオンくん?おひさしぶり。去年の夏以来かしら?」
ハイテンションのままシオンに気づき、話しかける先輩。
「えー、そうですね。あいかわらずハイテンションですね」
呆れているような言い方のシオン。
「えー。それが私ですもの」
それを物ともせず、淡々と喋り続ける先輩もすごい。
「ただノー天気なだけだろう…」
毒舌つっこみ。始まった…。
「ノー天気で悪かったわね。変態おじさんに言われたかないわよ!」
負けずと言い返す先輩。
「変態!?変態おじさんってどういう意味だよ。これでもてめぇーと同い年だぞ。しかも変態ってなんだ!!」無気になってケンカしだす。
「変態じゃない。何よ、しがない小説家みたいなかっこしてさ…」
そう。蒼夜はしがない小説家みたいな着物を着て、うちわを持っていたのだ。うちわはどうやら、さっきそこらで配っていたものらしい。自分で持参していたら笑える。確かに端から見れば変態かも…。でもおじさんではないだろう…。
「しがないだけ余計だ!!」
そう。彼は本当の小説家なのだ。
「本当に意外な組み合わせだよなー。顔合わせりゃ毎日だってケンカしてそうな奴らなのに…」
不思議そうな顔で、2人を見るシオン。
「うふ。そうね」
私は思わず笑ってしまう。

 なんやかんやで、この4人で回ることになってしまった。いろんな屋台を見たり、ビールを先輩と蒼夜が飲み出したり、やきとり食いてーとか言って、売ってる屋台を探し回ったり。もう、この狭い公園を、何回回ったことか…。
「あー、ヨーヨーだ」
先輩が、ヨーヨー釣りの前で立ち止まる。
「こんなんやりたいんか…?」
蒼夜が不思議そうな顔で言う。
「いーじゃん。あんたに関係ないでしょ?おじさん一回」
そう言っておじさんに話しかける。
「はいよ。50円ね」
そう言って先輩から50円を受け取ると、金具のついた糸を渡した。
「よーし。どれ取ろうかなー」
ヨーヨーが浮いている、小さなプールを見渡す。
「先輩、2個取れたら私にもくださいねー」
遊び半分で、後ろから話しかける私。
「こいつが2個取れるとは思えんのだが…。一個もどうだか…」
そう小声ながらも、聞こえるように言う蒼夜。
「失礼な!!この私をなめないでよね」
そう気合いを入れて、ヨーヨー釣りに望む。
「そんなんで燃えんなよ」
呆れてシオンが呟やいた…。

 さてはて。
「くっそーーーーー」
「先輩、落ち着いてください…」
私は、興奮する先輩を一生懸命宥める(なだ)。
「だってさー」
ぶーたれる。そう、あんなに気合いを入れてヨーヨー釣りに望んだのに、結局釣れたのは2個だけ。まぁー2個釣れたからいいじゃないって感じだけど、先輩は駄目なんだって。
「でも、ありがとうございます」
私は嬉しそうに、先輩にもらったピンクのヨーヨーを見ながら言う。ちゃっかり一個もらってしまった。
「いえいえ」
はぁーとため息をつきながら言う。先輩は薄い緑。結構綺麗な色。でも本当は黒が欲しかったらしい。しかし、自分が取る前に、小さな男の子に取られちゃったんだって。それも悔しいみたい。
「てめぇーはガキか」
蒼夜が呟く。
「なんですって」
すかさず言い返す。っていうか、ガキ化させたのは蒼夜の一言だ。
「本当にケンカばっかだね…」
2人を見ながら、呆れて言うシオン。
「本当にね…うふふ」
私はくすくす笑いながら答えた。

 そんなこんなで何周目かの時に、後ろから誰かに声をかけられた。
「ラリス!!」
「いたー!!」
いきなり、肩を思い切り叩かれる。かなり痛かった…。あまりの痛さに、思いっきり叫んでしまった…。
「お久しぶり!!元気だった?」
「まじおひさだよー。元気?」
クラスの友達がいきなり話しかけてきたのだ。そう、お久しぶり。終業式以来だもんね。
 あーもう一人いた。彼女は高校の時見かけたことがある。直接関わりはなかったけど、知っている人。
「あーお久しぶりー。元気だよ。2人も元気そうだね」
少し喜んで意気投合してしまう。
「誰?友達?」
シオンが聞いてきた。
「え?まぁーね」
にっこり笑って答える。
「なぁーに?彼氏?」
知ってるだけの人が、からかい口調に聞いてきた。
「え…う…ん。たぶん」
曖昧に答える。
「たぶんってなんだよ…。シオン・ルーファスです。いつもうちのラリスが、お世話になってます」
そう挨拶する。少し営業入ってる?
「うちのって何よ」
すかさず反応する私。
「さぁー」
なんで曖昧に言うのよ…。
「なんかラブラブね…」
「ほとんど夫婦万歳じゃない…」
友達が小声で話している。
「ねぇーラリス、ところでこっちの人達は誰?」
私達がケンカ?してるのを無視して、堂々と話しかける友達。
「え?あー、えーとこちらが、私の部活の先輩のシアさん」
慌てて説明する。
「どうも。シア・ライルです」
うわ…営業スマイル?
「で、こっちが、私のバカ弟の友達の、神無月 蒼夜。名前くらい聞いたことあるんじゃない?」
そう聞いてみる。
「え?もしかして、あの小説家の神無月 蒼夜!?」
あ…やっぱり知ってた。かっこはこんなしがない小説家だけど、知る人は知る、ちょっとした作家さんなんだよね。実は…。
「まぁー、その神無月 蒼夜です」
少し照れくさそうに言う。
「まじ!?ちょっとサインください」
なんだか新鮮な反応ね。
「こんな奴のサインなんか宝の持ち腐れよ…。どうせ売れなくて、しがない小説家なんだから」
やっぱりここで入る毒舌。
「どうせ俺は売れねぇーよ…」
けっといじけだす。
「…」
相手にされなかった先輩は、少しびっくりしていた。絶対何か返ってくると思っていたからだ。どうやら、痛いところをついたらしい。まぁー、あんま今は本当に売れていないらしいのだが…。
「でも、サイン下さい!!で、絶対売れる小説家さんへ。頑張ってくださいね」
手帳を渡して言う。
「はぁー」
微妙な返事をしながら、手帳にサインする。
「ありがとうございました」
「じゃーねー」
そう言って2人は去っていった。
「なんだか嵐だった…」
そう私が呟いた。

 それからまた何周かしたのち、先輩がそろそろ帰ると言い出した。もう8時をすぎていた。
「じゃー私は夕飯でも食べて、帰るとしますかね…」
「じゃー私は帰るね」
そう言って、先輩が帰ろうとした。
「おう、けーれけーれ」
そう、追い出すような言い方で蒼夜が言う。
「あんたも一緒に帰るのよ」
そう言って引っ張って行く。
「はぁー、なんでだよ…」
超嫌そうに言う蒼夜。
「レディーを一人で帰らせる気?送っていきなさいよね!!じゃーね、ラリス、シオンくん」
そう無理矢理な理由で引きずっていく。そして引きずりながら私達に挨拶した。
「なんで俺が、おまえを送ってかにゃーならんのだーーーー!!はなせーーーちきしょう!!」
とか言いながらも、あんまり抵抗する気はないみたい。そのまま引きずられて行ってしまった。
「あはは。さようならー」
私はあははと笑いながら、手を振った。

 「さてはて、夕飯は何を食べますかね…」
ひとりごとのような、人に聞いているような言い方をした。じつはさっきから甘い物やら軽食ばっかりで、ちゃんとした夕飯らしい夕飯を、食べていなかったりする。でももう、あんまお腹空いてないけど。
「あ!そうだ」
私は思いだしたように、いきなり言い出す。
「なんだよ…」
びっくりすりシオン。
「そうそう、私ラムネ買うの忘れてた」
ラムネ。お祭りの定番といえば定番のラムネ。って定番にしてるのは私だけかな?毎年のお祭りには、かならずラムネを買って飲んでいる。だから、今年も買わなくちゃって思ったんだ。
「ラムネ?」
不思議そうに繰り返すシオン。
「うん。お祭りでの、私の恒例みたいなもんなんだ」
嬉しそうに言う私。
「ラムネを買うのが?」
「そう」
にっこり笑って答える。
「ふーん」
そんな話をしているうちに、ラムネを売っている屋台についた。
「すいません、ラムネ二つください」
私が言う前に、シオンが言う。え?二つ?
「はいよ、200円ね」
そう言っておばちゃんが、シオンに二本のラムネを渡した。シオンはそれの代わりに200円を渡す。
「ありがとうございましたー」
一緒に手伝っていた子供達が、威勢良くお礼を言うのが聞こえる。そういえば、じつはこのお祭りは、近くのお店やら何かの団体やらが、有志で屋台を出しているのだ。
「はい」
そう言って、私に一本渡した。
「え?あ…えーと、100円でいいんだよね」
私はラムネを受け取ると、値段を確認した。
「いいよ。俺のおごり」
そう言って歩きながら、ラムネを開ける。プシューと炭酸が抜ける音がする。
「いいの?」
零れないように少し飲んでから、シオンが
「いいよ。100円くらい」
「でも…」
なんだか、人におごってもらうってことを、あんまりしてもらったことが私にはないから、どうしていいのか、困ってしまう。
「おまえ、俺は医者だぜ…年収いくらだと思ってんだよ…」
医者の卵の間違いでしょうが…。っていうつっこみは、なんだか言わなかった。
「えーいくらなの?」
遊び半分で聞いてみる。
「秘密だよ」
笑って走り出す。
「あーひっどーい。ちょっと待ってよ!!」
私は続いて走り出した。

 「ちきしょう。なんで俺が…」
そう、ぶつぶつと言いながら歩く蒼夜。
「ぶつぶつ煩いね…、男のくせして」
にらむ先輩。
「けっ、ほっとけ」
「ったく。気が利かない奴だね。こうでもしなきゃあんた帰らないでしょ。せっかく2人できてたんだから、2人っきりにしてやろうっていう魂胆だったのに。本当に、にぶちんだねあんた」
呆れる先輩。そう、じつは私達を、2人っきりにさせるための芝居だったのだ。
「あー…そうか…」
言われて気付く。まじにぶちん。
「ったく。ほら、帰りたいなら帰りな」
そう言って突き放す。
「え?」
意図が読みとれず、理解に苦しむ。
「だから、あれは演技なの。本当に私を送ってく必要はないんだよ。嫌ならとっとっと自分家帰れ!って言ってんだよ」
まったく、ここまで説明しなきゃ分からないのかねー、っとぶつぶつ言いながら歩く先輩。
「あーなるほど」
納得して手をポンっと叩く。
「まったく」
呆れる先輩。
「…でもまぁー、いいや。ここまで来ちゃったし。どうせ方向は、俺もこっちだ…」
そう言いながらも結局蒼夜は、シアさんを家まで送って行ったらしい…。
 後から聞くと、まぁー男として、あたりまえのことをしたまでだ!とかなんとか言っていた…。

 「くぅー」
私は背伸びをする。もう時間は、9時になってしまった。あれから、夕飯らしきものを買って食べ、おみやげにとやきそばを買った。
 今は帰りの道。さっき買ってもらったラムネを飲みながら、歩いている。
「あーあ。疲れた」
そう言いながら腕を回すシオン。彼もあまり人混みを好きではない。
「ねーシオン、今日一緒に行くの嫌だった?」
ふと聞いてみる。
「…なんで?」
不思議そうに私を見つめる。
「だって、シオンもあまり、人混みを好まないじゃない?」
苦笑しながら言う。
「まぁーな。でもおまえと行けるなら、どこでもいいさ…」
私の苦笑に対して、微笑で返してくるシオン。
「なっ…。もう…」
赤面する私。お兄さん、何げにこっぱつがしいんですけど、その台詞。
「ははは」
私の反応に笑う。もう、笑うな!
「ぷー」
私はすねる。
「はぁーあ」
「もう。あー、早く家に帰って風呂入りたい!」
さっきのこともあってか、少し怒り気味に言う。
「なんで?」
いきなり話題が変わったことに驚いているのか、不思議な表情で私を見る。まぁー、今日は涼しく汗もかかなかったけどさ、
「体中、煙臭い」
はっきりきっぱり、前を向いて言う。
「あーなるほど…。俺も後で入ろう。風呂貸してよ」
納得するシオン。そして自分も入りたいと言い出した。
「は?べつにいいけど、ってもしや泊まってく気?」
「まぁーいちお。だってもう寮の門限すぎてるもん。寮の中入れないよ…」
そう、彼は大学の寮に住んでるの。
 でもそこ、やたら規則が厳しくて、門限すぎると、届け出を出してない生徒は、自分の部屋に入れないってしくみ。しかも門限9時ときたもんだ。今時の大学生で門限9時なんてね。まぁー医大だからね。まじめさんしかいらないってことなのでしょう。
 とか言いながら、9時までに戻ってこなくても、あんまおとがめないみたいだけど。厳しいんだが、厳しくないんだがよく分からない学校(の寮)だよ。
「はぁーあ。まぁーいーけど」
なんだか半分諦め。まぁー、うちは5人で住んでるわけだが、家が結構でかくて広く、客間くらいはある。だから、シオンを泊めるには全然問題ないわけだが…。
「よろしく」
じつはこんなのしょっちゅうだったり。
「でもまぁー、すっごく楽しかったなー。繭ちゃんも来れればよかったのにな…。まったくクアルの奴…」
ぶつくさと文句を言う。
「しかたないよ。仕事じゃ」
いちおのフォロー?
「それもどうだか…」
行きたくない口実じゃないの?って言う言葉はなんだか言わなかった。
「はは。まぁー来年もあるんだし、来年楽しんでもらえばいいじゃん」
「まぁーね」
でも今年の楽しさは、今年にしかないのに…。
 「…」
ふと会話が途切れる。もう自分の家の近くなのだが、森に近い私の家は、どうも薄暗くて怖い。細い道を通ったりするから、さらに暗くてちょっと怯える。私はどうも幽霊とかいう類はだめで…
「ラリス」
「きゃっ!?なっ、何?」
私は思わずびっくりして、叫んでしまった。
「何?って…そんな驚かなくたって…」
シオンの方がびっくりしてるみたいだった。
「あーごめん。ちょっと…」
あははと苦笑して言う。
「あーそうか、おまえ幽霊とかダメだもんな」
少し笑いながら言う。
「う…煩いなーしょうがないでしょう!!怖いんだから…」
恥ずかしがりながら言う。
「べつに悪いとは言ってないぜ」
「むー…」
ふてくされる。もう。絶対シオンに口じゃ勝てないもん。
「まぁーラリスにも、そんな可愛いとこがあってくれて、俺は嬉しいよ」
本当に嬉しそうに言うシオン。
「絶対おもしろがってるでしょ」
上目遣いにシオンを見る。
「べつにー」
しらばっくれた言い方。絶対そうだ。
「もう、シオンのバカー」
そんなことを言いながら、もう暗い道を抜け、自分の家の通りへと着いていた。
「さて、祭り最後の仕上げだ」
「え?」
いきなり言い出すからちょっとびっくりする私。言葉の意味が、今は分からなかった。

 「ただいまー」
私が家に入ると、もうみんな帰っていた。空や千紗都は、もう浴衣から私服へと着替え、一服していた。繭ちゃんは夕飯の片づけ。どうやらクアルも戻ってきているみたいだ。
「よし。みんなナイスタイミングだ」
私の後ろから、シオンがそう言う。
「ナイスタイミング?」
私がいぶかしげな顔で振り返る。
「花火やろうぜ」
そう言って、私の前に花火の入った袋を見せる。っていうかいつのまに…。
「わーい花火!!」
「まぁーいいですわね」
空や千紗都は、はしゃいで外へと出ていった。
「まぁー、花火ですか?いいですね」
にっこり笑って、エプロンをはずす繭ちゃん。そうか!!私はひらめく。
「クアルも呼んでさ、みんなで花火やろう」
にっこり笑って言う。
「あ、はい」
繭ちゃんは、急いでクアルを呼びに行った。
「…そのため?」
私は、繭ちゃんが呼びに行った方向を見ながら言う。
「まぁーね」
と、さらりと答えた。
「…」
私は、シオンに顔が見られないように笑った。なんだかすごく嬉しかったのだ。でも何故か、この顔を見られたくなかった。だって、シオンって心理学を学んでいた時もあって、顔見られただけで、心も見透かされそう…。ただでさえ、あの瞳に見透かされそうなのに…。嬉しかったのを知られるのが、少し恥ずかしかったから…。だから…

 場所は、近くのバス折り返し地点。森だと蚊に刺されるから。今の時間ならバスも少ないし。
「きゃっほうー」
「危ないわよ!!空」
空が花火を振り回すもんだから、注意をする千紗都。
「すっごく綺麗ですね」
「ああ」
無理矢理(私に)連れてこられて、最初はふてくされていたが、花火の綺麗さと、繭ちゃんの力?で、なんとか穏やかな表情になってきたクアル。
「シオン」
私は線香花火をしながら、シオンを呼ぶ。
「ん?」
シオンはでかい花火を取り出しながら、私の呼びかけに反応する。
「今日は…ありがとう…」
なんだか少し恥ずかしくて、小声で言ってしまう。でも、
「べつに。俺も楽しかったし」
そう、シオンには、ちゃんと聞こえてしまうのだ…。
「花火も、すごく綺麗だし。本当に、ありがとう」
線香花火が終わってしまった。でも落ちなかったから、なんだかいい気分でシオンの顔を見て話せた。
「どういしまして!」
そう言いながら、でかい花火に点火する。
「みんな離れろ!!」
そう叫ぶと、みんながびっくりしながら逃げ出す。すると、ピューーーーと音がして、パンと大きな花火のように輝いた。ほんの一瞬だったけど、すごく綺麗だった。
「すっごーい。もっとないの?」
興奮しながら聞く空。
「残念ながら、一回かぎりだ」
にっこり笑って答えるシオン。
「えーーーーーー」
文句たらたらそうな顔で言う空。
「一回だからいいんですよ、ね!姉様方」
千紗都が、にっこり笑って私達に言う。
「そうですね。クアルさんもそう思いませんか?」
繭ちゃんも、にっこり笑ってクアルに聞く。
「え?あー…そうだな…」
いきなりの問いかけに少々戸惑いながらも、空を見上げながら答える。星がほんの少しだけど輝いていた。
「今の自分の、今日って言う日は、二度とないんだよ…。たしかに来年、また同じ行事は回ってくる。でも、今年と同じものは、二度とないのよ…」
ふと、私も空を見上げながら、みんなに聞こえるように呟く。するとクアルは…
「…ごめんな、繭…。来年は、一緒に行こうな…」
みんなには聞こえなかったけど、繭ちゃんにだけは聞こえた、大好きな人からの言葉。
「…はい」
繭ちゃんは、嬉しそうに笑って答えた。
「今年と、同じものは二度と回ってはこないけど、でも、来年はもっといいものが回ってくるかもしれない…」
そう言って、視線を空からシオンへと移す。
「…来年も、一緒に行ってくれる?」
私はにっこり笑って、シオンに聞いた。
「ああ…」
シオンは微笑して答えてくれた。

 お祭り。それはとても楽しい行事。でも、今の私が楽しいと思ったお祭りは、二度とはこない。でも来年、来年の私が、もっと楽しいと思っているお祭りが、来るかもしれない…。それを今から、彼と2人で、願っていきたい…。

Twinkle外伝  -去年のお祭り 今年のお祭り 来年のお祭り-  Fin 2001年7月30日


あとがき

 うはん。一昨日と昨日はお祭りでしたので、それにちなんだ話を書きました。この話は、私の昨日の出来事そのまんまだったりします。ほぼそのままです。友達をキャラに例えて、話しを書きました。だってラジドラメンバーだったものですから。ちゃんと原作者の許可も得てます。肩を叩かれたっていうのも事実だったり。かなり痛かったっすよ。
 さて、今回はお祭りだけをテーマに書こうと試みたところ、書いてるうちになぜか、今の楽しいことは今しかない、みたいな話になってしまいました。しかも花火まで出てくる始末。何故そうなったかは不明です。やっぱキャラが暴走してるのでしょうか…。まぁー自分でも結構気に入ってますので、よかったかと思っております。
 さてはて、これを私は、直しを含めて4時間くらいで書き上げました。やっぱ早いのだけが取り柄の光ちゃんです。中身は駄目駄目ですけど。本当に今日のAM1時に終わりましたよ。日記で書いて予想通りに。
 まぁー、ここまで読んでくださいまして、ありがとうございました。また来年もやるかな。その時はよろしくです。