一枚の思い出 第6話 「……」 そうか…昨日…あれから…。 「…ブルー…」 もし、一人であの写真を見つけていたら、どうしていただろう…。 そもそも、こいつが来なきゃ、あの写真自体を見つけられなかったかもしれない。 どのみち、一人では受け入れられなかった。 「…ありがとう…」 「もうっ!何も昨日の今日で行かなくてもいいじゃないっ!もう少し余裕を持ってさぁ」 おまえがいなかったら、今こうしてここにいないよ…。 「もう、超ひどい…」 あいつも、すぐ顔になんでも出る奴だった。 「まぁ、性格は好戦的で、昔のレッドに近い感じがあるがな」 今振り返ると、懐かしい…。 「あの山で、あいつと出会ったんだ…」 「ここで、あいつと修行をして、勝負をしていた…」 「ここが、俺が…あいつが落ちた…崖…」 下が見えないくらいの、深い谷。 「…っ」 もう何十年も来ていないはずなのに、自分の家の周りのように道を覚えている。 「…ご無沙汰しております、シジマ先生」 「…すまん、待たせたな…」 まさか……… 「…」 「バルキー!?」 あいつの…なのか… 「…おまえが…持っていた方がいいと思ってな…」 こんなところで、おまえに…会えるなんて…。 「…俺は、ポケモンをゲットできる年になった…。ポケモンをつれて、世界中を回れるくらい、強くなった…」 「バルキー」 「早く来い!!置いてくぞ!!」 山を走り抜けた、あの頃…。 2007年6月27日 Fin
おつき合い下さいまして、ありがとうございました。書いた6月27日からすでに1ヶ月以上たちまして、この連載には、1ヶ月ほどおつき合いくださいました。この1ヶ月間、一緒に読んでくださったみなさん。たまたま見つけて1日で読んでしまったみなさん、いかがでしたか?これは元々、「兄さんを泣かせよう」という目的のためにだけ書かれたものです。無償に兄さんを泣かせたくなり、いったいどうしたら泣いてくれるのか、散々考えた結果、結局無理で、みんなに泣きつきました。そしたらダーリンが「姉さんか死ぬとか?」と言われ、秋葉さんに「ポケモンが死ぬとか?オーキド博士が死ぬとか?」と言われ、風さんに「姉さんに兄さんのことを疑わせる」っていうか、なんかこう過去の触れられたくない部分に触れられて、おまえもかみたいな状況にさせるとかっていう意見を、全て総合してこの話を製作しました。さすがに天下のオーキド博士を殺すわけにはいかないのでポケモンで。姉さんが死ぬとただ重い話しになりますからね。疑うだけだと、兄さんが泣くのは、あまりにも兄さんが弱すぎてしまう。へたに兄さんのイメージを壊さず、それでいていかに原作とリンクさせるか。でも原作に影響を与えない程度に、なるべく原作に近づけられるか。そう言ったことを目標として書きました。そのために、シジマ先生の場所にいたとき設定で、今の手持ちにはいないポケモンを殺し、その事実を忘れるということで、原作とのリンクと、今の原作との違いがないようにとして作ってあります。思い出すのは、原作が終了した後の物語としておけば、原作にも影響がなく、だからといって大きく改編したわけでもないという形で作ることができました。まぁグリブル自体が創作ですから、なんとも言えませんが。
明け方、ふと目を覚ます。
「…」
隣には、規則正しい寝息をたてて、眠っているブルーがいた…。
起きないように、優しく名前を呼び、髪を梳き、頬を撫でる。
また、見ないフリをして、仕舞い込んだだろうか…。
いや、あのアルバムが出てきた時点で、あいつの何かが、あったのかもしれないけど…。
慌てて用意した荷物を持ち、ヤマブキシティで電車を待つ。
船の方がタンバシティには行きやすいが、こんな急ではそう簡単にチケットは取れなかった。
「別についてこなくても良かったんだぞ?」
なんて、悪態をつきながら電車に乗る。
「ひっどーい!」
そう叫びながら、同じく彼女は電車に乗った。
「冗談だよ」
宥めるように、優しく頭を撫でる。
ぷぅっと頬を膨らませ、そっぽを向くから、
「…っ」
思わず、笑いがこみ上げた。
「なんで笑うのさ!!」
「いや、あいつに似てるな、と思って」
俺が落ち込んでれば、心配そうに俺を見上げて。
怒ったら、頬を膨らませて睨む。
楽しかったらすごく笑って、ころころと、表情の変わる奴だった。
「レッドは昔から好戦的だもんね」
バルキーは、ケンカポケモンと言われるくらいだ。
出会いも勝負だったし、毎度勝負ばかりを繰り返していた…。
そう、思えるようになった…。
ジョウトへ渡り、海を越える。
離れた島のタンバシティは、午前中には家を出たはずなのに、ついたのはあれから数日後だった。
山の奥へ入り、少し開いた場所に出る。
あの場所は、今では俺が的にしていた岩や木が、ぼろぼろになって、残っていた。
あのままの姿で、ずっと、ずっと残り続けていたんだ…。
上から下を見下ろす。
気を抜けば、すっと吸い込まれそうになる。
ここから落ちたら…まず助からないだろうな…。
ブルーは、俺の手をぎゅっと握ってくれる。
「…行こう」
俺はきびすを返し、彼女の手を握ったまま、山を降りた。
あいつのことも、あの頃の記憶も、もう完全に、思い出していた。
礼儀正しく頭を下げて、挨拶をする。
「うむ、あの騒動以来か…。元気であったか…」
「はい、おかげさまで…」
「…っ」
「ブルー」
「だって…」
俺のかしこまった挨拶がおかしかったのか、彼女はくすくすと笑い出した。
「…何用で参ったのだ」
「…あ…いや…あの…」
少し、言葉を濁す。
あいつのことを口にするには、あのときのことも、謝らなければならない。
「どうした…」
「…このたびは、あの日の騒動、大変申し訳なく思います。すみせんでした」
俺は、深々と頭を下げた。
「…あの日の騒動?はて、なんのことだったかな…」
「…いや…だから、俺が暴力沙汰をおこした…」
「あぁ!あれかぁ。あっはっはっは!あんな子供のケンカ!暴力沙汰と言うほどでもないだろう!」
先生は大笑いで、その場の暗い空気を吹き飛ばす。
「いやしかし…」
「おまえ、相変わらず自分の力を過信しているのか?あんな子供のケンカ、相手なんぞ骨のひとつも折れとらんっ。なんだ、それを気にして来んかったのか?あいかわらず気ばっかりはちっちゃい奴だなっ」
「ぷっ」
「ブルー…」
この野郎、笑うんじゃねぇ。
「あははは!!この人おもしろーい!」
そう彼女は笑い出す。
「こらっ!失礼だろ!」
「だってぇ」
「しっかし、彼女なんぞ連れてきおって、おまえも変わったなぁ」
「ブルーと申します。いつもグリーンがお世話になって」
ブルーはずいっと前に出て、軽く会釈をして挨拶をする。
「おまえなっ」
ったく…。
「あっはっは!尻にしかれているのだなっ」
「違いますっ」
あーもう、こいつのせいで話しが無茶苦茶だ…。
「…あぁ…さて、本題があるのだろう…」
お茶を一杯飲み、先生は話題を切り替える。
「え…」
さっきまでのふざけた空気が、ぴりっとしたものに変わった。
「わざわざ謝るため、まして彼女を紹介するために、来たわけではあるまい…」
「…」
先生は、いつだってなんでお見通しだ…。
「……あいつ…バルキーのことで」
「っ!?…思い…出したのか…」
「…はい…」
ぎゅっと手を握りしめる。
「…しばし、待っていろ」
そう言うと、シジマ先生は立ち上がり、部屋を出ていった。
「…グリーン…」
「…ん?」
先生が出て行った後の沈黙を、彼女が破る。
「シジマさんって、いい人だね…」
「…あぁ」
あの人に、俺は救われたんだ…。
あいつが居なくなった後、ずっと、俺を支えてくれていた…。
先生が部屋に戻ってくる。
「いえ」
「これを」
そう言って、俺にモンスターボールを渡した。
「…これ…は」
「おまえが、あいつのことを思い出したときに、渡そうと思っていた…」
「…」
俺は、視線を落とし、モンスターボールを見る。
まさか…
恐る恐る、モンスターボールを開ければ、そこには、
「嘘っ!生きてたんですか?!」
ブルーが慌てて先生に問う。
「…いや、残念だか、駆けつけたときにはすでに…」
「…じゃあ、どうして…」
どうして、バルキーが…
「…その近くで、卵が発見されてな…。もしやと思って孵してみたら、案の定だった」
「…バルキーの…卵…」
「………ありがとう…ございます…」
ぎゅっと、もらったモンスターボールを握り締める。
「…ごめん…ごめん…ほんと…俺のせいで…ごめん……。でも俺を、助けてくれて…本当に…ありがとう…」
ありがとう…。
「おまえのおかげで、俺は今、こうして、生きて、強く…なれた…」
オーキド博士の孫という立場を受け入れて、なおグリーンとして、生きる道を、歩むことができた。
「…本当に…ありがとう…」
「バルキーさん!あたしのだーい好きなグリーンを助けてくれてありがとう!これからはあたしがしっかり見守っていくので大丈夫ですよ!!ゆっくり安らかにおやすみくださいね!!!」
「…おい」
どうしてこいつは、シリアスの空気をぶち壊すんだ。
「…帰ろうっ…グリーン」
嬉しそうな笑顔を浮かべて、彼女は俺を見上げる。
「………あぁ」
先に歩き出す彼女を横目に、再度墓石に振り返る。
「…じゃあ、また…来るよ…」
「グリーン!!早く!!置いてくよぉ」
「あぁ、今行くっ」
俺は、彼女を追いかけた。
あとがき
当初はこの話、5話で終わらせるつもりでした。ポケモンが誰であったかを証せば十分だったというか。あとは皆さんの想像に任せますって感じで。でもなんか書いてるうちに苦しくなった自分は、少しでもハッピーエンドで終わるようにしかできなかったんですよね。あああ。シリアス好きな方はほんと5話でやめることをお勧めしますよ。6話はあくまで、自分が苦しくならないためのものだったので。でも墓参りのシーンをどっかにはいれたくて、できてしまった話でもあるんですけどね。
しかし結局、グリブル要素なんて、欠片くらいしかなくて、グリブル小説として載せるには、あまりにも忍びない出来になってしまいました。あげく殺すネタだし、みんなキャラ違いすぎるし。どうしようもない感じになっちまったなぁって感じです。まぁでも書くことができて自分は良かったなぁって思いました。初めて長編っていうか、短編の寄せ集めみたいな感じですが、一つの話を長々と書き連ねるというのは、なかなか難しいことで、ちゃんと1話1話が意味を持って存在するようにするにも、なかなか苦しくて。書いていて苦しくなって、どうしようもないくらい、書くのが大変だったお話ですが、話を構成することにはさほど困らなかったので、良かったなぁって思います。少しでも誰かが、この話を読んで良かったなぁって思ってもらえることを願って。